前回記事で見たように、イエメン情勢は悲惨です。
また国際関係の観点から見ても、かなり重大な国際問題ですよね。
こうした世界にとって重大な問題は、日本でどれほど取り上げられたんでしょうか?
日本におけるイエメン報道量とその内容
報道量を計ると、日本でのイエメン情勢に関する報道はとても少ないことは明らかです。
データが少し古いですが、GNVがイエメン紛争が始まってから3年間の報道量を分析しています。
読売新聞の東京朝刊・夕刊の中で見出しに「イエメン」の文字が含まれる記事の数は2014年9月から3年分で83件、文字数は37,619文字です。
つまり平均すると、1か月につき2.3件1,045文字分しか報道されていません。
この数値は下のグラフから分かるように、イエメンに関する報道をイエメン紛争発生から3年分合計しても、イエメン紛争が始まった2014年に取り上げられた他の紛争に関する国際報道1年分(2014年)の報道量にすら届きません。
連日取り上げられていたウクライナ紛争の1年分に比べて、イエメン紛争の3年分の報道はその10分の1もありません。
何年にもわたって何百万人もの人々が被害に遭ったイエメンでの人道危機の3年分の報道量は、パリという1都市で1日の間に起こったテロに関する報道(1年分)の半分以下です。
読売新聞に掲載された少ない報道の中で、イエメン紛争のどのような側面が強調されているんでしょうか。
下のグラフから分かるように「紛争・武力衝突」に関する記事がイエメン報道の半分以上を占めています。
政治的な動きもある程度着目されているが、その一方で「人道危機」を取り上げた記事はとても少ないです。
またその内容はほぼコレラに関するもので、飢え、飢饉、パイプラインの壊滅については記事中でほとんど触れられていません。
サウジアラビア連合による物資輸送路の封鎖に関しては全く取り上げられていませんでした。
紛争やテロなどセンセーショナルでインパクトの強い部分ばかりを取り上げ、人道的支援を求めている大勢の国民の実情にほとんど焦点が当てられていないんです。
記事ではさまざまな紛争当事者が登場していて、その外部アクターの中でもサウジアラビアは83件中17件と最も多く登場していました。
でも、その記事の内容はほぼ全て空爆に関するもので、輸送路の封鎖など、人道的被害を拡大させる最大の原因を作っているサウジアラビアの実態は取り上げられていませんでした。
またアメリカは83件中5件(約6%)しか見出しに登場していません。
アメリカによる空爆や当時のオバマ大統領がサウジアラビアの軍事行動の後方支援を承認したこと(2015年)は取り上げられていましたが、サウジアラビアへ武器提供をしていたという事実は一度も取り上げられていませんでした。
偏った報道の背景には
なぜこのような報道になるんでしょう?
まず、日本の報道の普段からの傾向・趣向を見る必要があります。
貧困国や日本と直接的関係の薄い国での出来事はニュースバリューが小さく、報道の優先度が低くなり、報道されにくいです。
なので、日本とのつながりが薄く貧しい国であるイエメンの出来事は報道されないと考えられます。
また取材に入る意思が仮にあったとしても、サウジアラビアやイエメンの政府がジャーナリストの入国を妨げているという事態が起こっています。
サウジアラビアの関与に関するネガティブな側面の報道が少ない理由としては、サウジアラビア側で参戦しているアメリカの影響があると考えられます。
日本とアメリカの報道には相関関係があという分析結果があります。
アメリカはサウジアラビアにとって最大の石油輸出先で、アメリカはそれに大きく依存している一方で、サウジアラビアもアメリカから武器の提供を受け、それを用いて紛争に参戦しています。
つまり石油産業と軍需産業における利害関係がとても強いんです。
アメリカはそのような関係にあるサウジアラビアのネガティブな側面をあまり報道せず、互いのイエメン紛争への責任を覆い隠しているのではないでしょうか。
そのため、アメリカの報道の影響を受ける日本の報道機関は、イエメンの人道危機の原因を作ったサウジアラビアによる輸送路封鎖などをあまり取り上げないとも推測できます。
さらにアメリカ同様、日本も石油の40%をサウジアラビアから輸入していて、日本とサウジアラビアの関係もとても深いです。
こうした日本による忖度もサウジアラビアのネガティブな側面の報道が少ない理由の一つとなっているのかもしれなません。
コラム
援助ルートをサウジアラビアが封鎖していることも報道されません。
国家間の利害関係が、日本の報道に影響を及ぼしてしまっているんです。
深刻な人道的被害が存在するという世界の現状を、私たちは知らないままでいていいんでしょうか?
紛争について、
紛争の死者数:空爆だけじゃない。直接死より間接死が圧倒的に深刻
など、紛争カテゴリーで過去記事書いてるので、ぜひ読んでみてください。