難民受け入れは「治安が悪くなる」「職を奪われる」はホント?:驚きの研究結果!

難民受け入れは「治安が悪くなる」「職を奪われる」はホント?:驚きの研究結果!

みなさんこんにちは、コクレポです。

難民を受け入れると「コストがかかる」「治安が悪くなる」「職を奪われる」で国にとってマイナス!と思ってる人も多いんじゃないでしょうか?

でも、これってほんとなんでしょうか?

今回は、難民を受け入れることは利益になる、という多くの研究を紹介したいと思います。

1975年、アメリカ・カリフォルニア州に上陸する最初のベトナム難民(写真:manhai/Flickr [CC BY 2.0])

難民の現状

難民とは、紛争や人種差別、宗教的・政治的な思想の弾圧など、さまざまな理由から国を逃れている人々のことです。

世界の難民の数は増え続けていて、2020年、世界人口の1%の8420万人と過去最多になりました。

難民の出身国は多い順にシリア、アフガニスタン、南スーダンなどです。

また、受け入れ数の多い国にはトルコ、パキスタン、ウガンダなどがあります。

難民の出身国と受け入れ国の間には地理的な近さがもっとも関連していますが、政策として難民を多く受け入れているドイツはその数が世界第6位と多いです。

アムネスティのデータを元に作成

特にウガンダでは、難民の受け入れ数がヨーロッパ全体のそれを上回った年もあるほど難民を受け入れていて、その難民に対する寛容さは世界でも高く評されています。

比較的に小さな発展途上国でありながら、移動や就業の自由があることに加え、教育・医療サービスの提供も行われるという政策を採っています。

難民は何から逃れている?

では、難民たちは何から逃れようとしているんでしょうか?

シリアからは非常に多くの難民が発生していますが、これは2011年から続くシリアでの武力紛争のせいです。

国外に逃れる難民だけでなく、国内避難民の数も660万人に登っているというデータもあります。

難民の出身国が第2位のアフガニスタン、第3位の南スーダンについても同じ様に、難民が逃れているのは紛争です。

世界で発生する難民の大半は、紛争に伴う危機から身の安全を確保するために、故郷を後にしています。

リビア・トリポリにあるUNHCRの難民登録所で難民申請を提出するシリア人家族(写真:World Bank Photo Collection/Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])

国際法(難民条約)義務を渋る国々

国際法の難民条約にも明記されている通り、難民を含むすべての人間には基本的人権を享受する権利があり、したがって庇護を求める権利を持っています。

本来ならば、何の責任もなく危機から逃れざるをえない難民を他国が保護することは、国際的な義務です。

でも、世界では難民の受け入れを渋る国が多いのが現状です。

2016年の統計によれば、84%の難民は発展途上国にて避難生活を送っていて、これらの国では、国の人口に対する難民の割合がとても高いです。

たとえばレバノンでは、なんと人口の4人に1人が難民です。

難民の多くが、隣国で避難生活を送っていることは表からも読み取れます。

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でも問題視すべきは、経済的により豊かな先進国における受け入れ数の少なさです。

これには難民に対するさまざまな「懸念」が絡んでいるんではないでしょうか?

確かに、難民を受け入れることは一筋縄にはいきません。

難民を多くは受け入れられない「理由」があるはずですが、実はその多くは研究によって否定されていて、ただの「誤解」である可能性が高いです。

難民を受け入れるに際しての問題と、彼らを受け入れるメリット、そして彼らに関する誤解を1つずつ見ていきましょう。

難民を受け入れるに当たっての諸問題

難民の多くは、ひっ迫した状況で危険から逃れようとしています。

国によっては難民申請の判定結果を出すのに数年以上かかることもありますが、彼らにはそんな時間はありません。

そして準備期間もなく他国へ逃れた難民には、お金も仕事もなければ、新しい生活の場の言語能力もありません。

移住先における基礎的な生活能力だけでなく、異文化の中で社会生活を築くことも一苦労で、時間とともに受け入れ側によるサポートが必要になります。

その上、難民には心にトラウマを抱えている人もいるため、その治療をする必要もあります。

難民を受け入れて彼らの生活を保障するには、教育や労働の機会を設ける必要があって、そのためには言語能力が不可欠です。

しかも心や体に傷を抱えたまま「普通の」生活に近づくことは難しいです。

これらのことを考慮すれば、難民を受け入れるにはしっかりと体制を立てる必要があります。

そのため、難民の受け入れにはコストがかかります。

受け入れ側によるサポート、つまり多額のお金と時間、人材が必要となります。

通年で難民を受け入れているカナダの学校(写真:Province of British Columbia/Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])

難民のもたらすメリット

このようなコスト面での問題は大きいですが、その懸念も払拭されるような研究結果が出ています。

経済面

まず経済的な面を見てみましょう。

実は難民の受け入れはその国の経済にとって利益があるので、多くの経済学者たちは合意しています。

もちろん難民が定着するまでのコストはかかりますが、いったん定着すると、彼らはその際のコストやその後に受け取る社会福祉を上回る税を支払っていることがアメリカでの研究より明らかになっていて、その額は21,000米ドルにものぼります。

さらに、イギリスでは1年に260,000人の移民を受け入れることで、50年後にはイギリスの公債を半減させることができるという研究結果も出ています。

難民を受け入れる際のコストが大きいことは否定できません。

でも長い目で見れば、難民の受け入れは経済的にプラスの影響をもたらします。

さらに、アメリカでは移民が実業家である割合が自国民よりも高いです。

これには「他国へ移住(避難)する」という極めてリスキーなライフイベントに対する行動力、そして自国民とは違う体験や発想力が革新を生むことなどが関連しています。

たとえば、Google社の共同創始者であるセルゲイ・ブリン氏は、幼少期に家族でロシアからアメリカに移住しています。

Apple社の共同創始者であるスティーブ・ジョブズ氏も、実父がシリアからアメリカに移住している移民2世です。

そして、移民や難民が新しく企業を経営することは、新たな職を生むことにもつながります。

バンクシー:スティーブ・ジョブス(写真:Duncan Hull / Flickr [CC BY 2.0]) 

政治面

さらに、政治の分野で活躍する難民もいます。

たとえばアメリカではソマリア出身の難民であるイルハン・オマル氏が2018年に連邦議会議員として当選しています。

このように、移民や難民には移住先で活躍する人が多いんです。

演説を行うイルハン・オマル氏(写真:Lorie Shaull/Flickr [CC BY-SA 2.0])

教育面

また、難民の受け入れは、教育面においてもメリットをもたらすことがあります。

たとえばヨーロッパへ移住するシリア難民の半数近くは、実は大学を卒業しています。

つまり、多くの難民は専門的な知識やスキル、資格をもっているため、移住先での教育コストが大幅に削減されるということです。

たとえばイギリスでは、1から医者を育てるのに約340,000米ドルかかるところですが、もともと医師である難民に免許を与えるにはその10分の1しかいりません。

高齢化対策

さらに、昨今の先進国では少子高齢化が問題になっているが、難民を受け入れれば、長期的に見て高齢化社会に伴う問題を軽減することが理論上は可能と言われています。

難民の平均年齢は低く、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のデータによると、他国で避難生活を送る難民のうち60歳以上はたったの4%です。

受け入れた難民の平均年齢が低ければ、若い人口や労働力の補填につながり、そのため高齢者を介護するための財政コストによる若者への負担を軽減することも可能です。

もちろん劇的な改善が期待できるわけではありませんが、高齢化対策としては適切です。

レバノンの繊維工場で働くシリア難民(写真:DFID – UK Department for International Development/Flickr [CC BY 2.0])

文化面

最後に、文化的な側面を見てみましょう。

他国から難民を受け入れれば、文化の多様性が生まれますよね。

難民は、自国民とは違った知識やスキル、異なった文化を持っています。

たとえば、難民が自国の料理を提供するレストランを作れば、食文化の多様性につながります。

移民や難民の社会的な活躍も考慮すると、画期的なイノベーションや新たな視点をもたらすこともできます。

文化的な摩擦がよく懸念されますが、裏を返せば豊かな文化を「もたらす」可能性を難民は秘めていて、彼らは受け入れ国において数々の福祉を「享受」するだけの存在ではありません。

ケニア・ダバーブで働く難民のジャーナリスト(右)(写真:EU Civil Protection and Humanitarian Aid Operations/Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])

難民出身国への影響

逆に、難民の出身国はどうでしょう?

難民の受け入れ後、彼らの出身国の問題がいったんおさまれば、難民の多くは帰国します。

そうなれば避難先の国で得た知識や技術も持ち帰られることになります。

つまり、出身国に新しい知識や技術をもたらし、さらに多様で競争的な経済を生むことができます。

1990年代前半に旧ユーゴスラビアを構成していた国々から出た難民がドイツに一時的に避難した後、母国へ持ち帰った知識と技術が大きな利益をもたらしました。

難民に関する誤解

このように、多くの研究によると難民の受け入れはプラスの側面も大きいですが、それらを知らない人々も多いのではないでしょうか?

「治安が悪くなる」のウソ

たとえば、よく言われるのは「移民・難民を受け入れると治安が悪くなる」です。

でも、この誤解も研究によって否定されています。

実はアメリカでは、難民を含む移民全体の犯罪率は自国民より低いという研究結果が出ています。

具体的な数字を見てみると、不法移民の犯罪率は自国民の犯罪率よりも44%低く、合法移民については69%低いです。

移民の犯罪率が高いという誤解は、移民の規制をしたい人々によって生み出されています。

さらに、アメリカで難民の受け入れ数が人口比トップ10の地域を調査すると、難民の受け入れ後に犯罪率が下がったということまで分かっています。

ここでいう犯罪とは、凶悪犯罪と窃盗犯罪を含むものです。

これらの都市では、そのような犯罪が20〜25.6%減っています。

また、難民のテロ犯罪がよく懸念されますが、アメリカでの別の研究によれば、1975年から2015年の40年間で受け入れた難民のうち、テロリストは皆無に近かったといいます。

難民・移民の受け入れが犯罪率を上げているとは断言できない研究結果です。

移民・難民団体の代表たちと受け入れる市議会が囲む円卓会議(アメリカ・シアトル)(写真:Seattle City Council/Flickr [CC0 1.0])

「職を奪われる」のウソ

職業・経済面はどうでしょう?

たしかに難民・移民の労働市場への参入は、自国民の賃金の低下という負の影響を及ぼすこともありますが、それは一時的なものです。

アメリカでの研究によれば、実際には賃金や雇用への影響はほとんどありません。

あっても、影響を受けるのは元から居住している他の移民や高校中退の自国民の場合が多いです。

そもそも難民は自国民とは持っているスキルが異なっていたり、自国民の携わる多くの職業が高い言語能力を要したりするので、労働市場で自国民との直接的な競争が行われるとは言えません。

さらに言えば、移民が移住してくることによる経済的な影響(好影響であれ悪影響であれ)はGDPの1%以内に収まることが、イギリスの複数の研究より明らかになっています。

難民を受け入れると、一時的なコストはかかるものの、治安が悪くなったり、職を奪われたりする可能性は低いんです。

これまで見てきたように、長期的な目で見る限りは、難民の受け入れはさまざまな面においてポジティブな影響をもたらす可能性を大いに秘めています。

しかし、いずれも受け入れ国でサポートができている場合の話です。

もし難民を受け入れる政策を採るのであれば、ドイツやウガンダのように移民・難民政策を進めてきた国を参考にして、事前に体制を整える必要があります。

2013年、ウィーンにて難民の人権を謳ったデモの看板:「難民は人間だ」(写真:Haeferl/Wikimedia Commons [CC BY-SA 3.0])

コラム

難民受け入れって、”良心でやってあげてる”と思っていたかもしれませんが、実は、難民を受け入れることで得られる利益も大きいんです。

たしかに、難民の受け入れには最初コストがかかりますが、捉え方によっては投資であるとも言えます。

もちろん受け入れ国でサポートができている場合、というのが肝で、制度だけでなく、いろいろな価値観・文化を認め合う考え方を市民がもっていることも必要です。

ネガティブに語られがちな難民に対する誤解や懸念が事実なのかどうか、正しい情報を知って、日本の入管法改正案についても考えてほしいなと思います。

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