アフリカ野生動物:国立公園サファリの裏側:観光の裏で先住民マサイ人に暴力的な立ち退き命令!?

みなさんこんにちは、コクレポです。

アフリカといえば、野生動物!サファリ!国立公園!と想像する人も多いのでは?

でも、政府が立ち退きを拒絶するマサイ人の家屋を燃やしたり、抗議活動に対して銃撃を行ったり、暴力的な行為が報告されているのを知っていますか?

政府は自然保護を謳っていますが、実際に住民の立ち退きが自然を保護することにつながっているんでしょうか?

今回は、アフリカの各地域で自然保護を名目とした暴力的な立ち退き行為が行われている実態と、一体なぜ起きているのかその背景をみてみましょう。

牧畜を営むマサイ人(写真:safaritravelplus / Wikimedia [CC0 1.0])

タンザニア国立公園・マサイ人立ち退き命令

ンゴロンゴロ保全地域は1979年に、セレンゲティ国立公園は1981年に世界遺産に登録され、観光資源として利用されるようになっていきました。

それによってマサイ人は居住区域を狭められ、生活まで制限されるようになっていきます。

GNVより引用

そして、2017年にタンザニア政府はンゴロンゴロ保全地域内に住む住民に対して、自然を保護するためという理由で立ち退きを要求しました。

立ち退きを拒絶したマサイ人に政府は暴力的な立ち退き行為を行い、EACJによる裁判へと発展しました。

この訴えをきっかけとし、マサイ人の権利と政府による立ち退き行為に関する裁判は5年間続きました。

マサイ人からの訴えを受けた裁判所は、2018年には一度タンザニア政府に対して立ち退き行為の差止令を出しています。

それにも関わらず、判決後もタンザニア政府は暴力的な立ち退き行為をやめることはありませんでした

そして2022年9月、政府の立ち退き行為は合法であるという最終判決が裁判所によって下されました。

政府は2017年の立ち退き行為は法律に従い、住民に十分な敬意を払って行われたと主張していますが、マサイ人の代表は暴力的な立ち退き行為によって被害を受けた旨を主張しています。

結果的に裁判所は、マサイ人の主張を裏付ける証拠が不十分であると結論付け、政府の主張を認める形で「合法」という判決を下しました。

タンザニアのマサイ人と動物たち(写真:David Roberts / Flickr [CC BY-NC 2.0])

なぜ政府は立ち退きを要求するのか

そもそも、政府は何のためにここまでして住民を立ち退かせようとしているんでしょうか?

では独立後のタンザニア政府によって行われている立ち退き行為には、どのような意図があるんでしょう?

現在のタンザニア政府が立ち退きを要求する理由の1つに、狩猟やサファリを含む観光によって得られる利益が挙げられます。

観光業は、タンザニアの経済発展において非常に重要な役割を果たしてきました。

世界銀行によると、2019年時点で観光業はタンザニアの最大の外貨収入源となっていて、またGDPのうち2番目に大きい割合を占める産業となっています。

同年にタンザニアを訪れた観光客の数は150万人にものぼります。

このことからもタンザニアにおける観光業の重要性がうかがえますね。

こうした観光事業から利益を得ている政府は、観光資源である国立公園や保全地域に、より多くの観光客が訪れることができるように住民の立ち退きを行っているとされています。

保全地域では、マサイ人のように古くからそこに住む住人が長きにわたって自然や生態系と共生してきました。

しかし政府は自然を保護するためという大義名分を掲げ、保全地域に住む住人を追い出し、政府の管理下に置こうとしています。

タンザニア政府による複数土地利用モデル(Multiple Land Use Model : MLUM)計画では、ンゴロンゴロ保全地域の管理をマサイ人が行い、政府が十分に観光資源として利用できなければ2038年までに予想される利益のうち半分を失うという推測もなされています。

こうした利益を失いたくないという考えも、立ち退き行為の要因となっているでしょう。

また、政府と狩猟会社などとの間にある密接な関係も政府が立ち退き行為を行う原因だとされています。

タンザニアには、狩猟を目的とした観光客が多く訪れていて、そうしたサービスを提供する狩猟会社が多く存在します。

そのような会社に対して政府が狩猟場所と権利を提供し、その見返りに資金を得ています。

例えば、アラブ首長国連邦(UAE)を拠点とする狩猟会社OBC(Otterlo Business Corporation)は、1993年に初めてタンザニア政府から土地の提供を受けました。

その見返りとして政府は数百万米ドルの資金を受けとったとされています。

こうした仕組みによって利益を得られる政府にとって、狩猟会社との結びつきはマサイ人を立ち退きに追い込む理由になり得ますね。

このほかにも、自然保護規則の重大な違反を犯したにも関わらず、その後再び政府から狩猟許可を得たグリーンマイルという狩猟会社も存在します。

このように、タンザニア政府は自然保護ではなく政府の利益のために住民の権利を侵害する立ち退き行為を行っていると考えれられるんです。

タンザニアにおけるサファリの様子(写真:Colin J. McMechan / Flickr [CC

自然保護名目で住民の権利を侵害アフリカ他国の事例

このように自然保護を名目に住民の権利が侵害されている事例は、タンザニアに限りません。

例えば、ケニアでもマサイ人の土地と権利が奪われ続けてきた歴史が存在します。

タンザニアと同様に、ケニアでもイギリスによる植民地化の過程で住民が立ち退きを余儀なくされてきました。

現在のケニアにあたる場所に住んでいたマサイ人は、先祖代々の土地を入植者に奪われ「保護領」へと移動しました。

この移動について、イギリス側は1904年と1911年に調印された2つの協定に基づいていると主張していますが、当時のマサイ人にとって、言語的な問題などから協定の内容を理解して行った調印ではなかったという意見もあります。

また、移動先の保護領も決して良い環境と呼べるものではありませんでした。

保護領における住民は厳重に管理され、道路建設などの強制労働や強制的な学校教育、検疫の制限などのもとで生活を行っていました。

加えて、タンザニアと同様に小屋税の導入もケニアの住民を苦しめることとなりました。

近年では、世界銀行が資金提供を行う天然資源管理プロジェクト(Natural Resource Management Project : NRMP)というプロジェクトの実施のために住民たちが排除されています。

自然保護という名目で従来の森林保護区の境界を変更し、そこに住んでいた住民を立ち退かせています。

2010年に改正されたケニア憲法には、何世紀も前から先祖代々森に住み続けてきた住民たちの慣習や土地、権利を保護しなければならない旨が定められています。

しかし、ケニア政府は住民たちに一切相談することなく決定し、家屋を焼いて立ち退きを強いています。

さらにケニア政府は世界銀行から支援を受けながら、森に住む住民たちを国内避難民と同一に「不法占拠者」として扱い報道することで、立ち退き行為を正当化しようとしています。

コンゴ民主共和国でも、自然保護を名目に住民が暴力的に退去させられています。

1970年、コンゴ民主共和国東部にカフジ=ビエガ国立公園が設立されました。

設立時には、先祖代々から住んでいた約6,000人のバトワ人が立ち退かされました。

しかし、政府から住人に対する相談や補償等はありませんでした。

その後1980年にこの国立公園は世界遺産に登録されました。

公園には絶滅危惧種としてレッドリスト(※3)に記載されているゴリラをはじめとして様々な生物が生息しています。

こうした生物たちの保護を名目に、住民に対する暴力的な立ち退き行為が続けられてきました。

2019年から2021年にかけての暴力行為について調査した報告書によると、公園の警備員やコンゴ軍によって村の焼き払いや重火器を使った住民への攻撃が行われ、3年間で少なくとも20人のバトワ人が死亡したとされています。

カフジ=ビエガ国立公園でゴリラを撮影する人々(写真:Advantage Lendl / Flickr [CC BY-ND 2.0])

カメルーンでは自然保護を目的とした国際NGOである世界自然保護基金(WWF)によって支援された政府が、伝統的にカメルーンに居住しているバカ人の権利侵害を行っているとして問題となっています。

カメルーン国立公園には、絶滅危惧種に指定された多くの生物が生息しています。

そんな公園内に住む彼らは狩猟を生業としているが、その狩猟が自然に及ぼす影響は非常に少ないとされています。

それにも関わらず、狩猟場所への立ち入りを禁止され生活が立ち行かなくなっています。

そして奪われた森林は、密猟が行われたり観光客によるサファリのための土地として利用されたりしています。

またWWFは、カメルーン国立公園と密猟防止のための活動を行うエコ・ガードという団体に資金提供を行っています。

本来自然を保護する役割を担う彼らは、自然に寄り添った生活を行うバカ人の住居を破壊し、立ち退きを強制したり財産を奪ったりして、暴力行為を繰り返しています。

利用される「自然保護」

このように、アフリカの各地で長くそこに住んでいた住人たちが強制退去させられる事例はあとを絶たちません。

そしてその立ち退きの名目には「自然保護」が利用されています。

自然保護のために立ち退きを要求する根拠の1つとして、人口過剰の理論が唱えられてきました。

住民の人口増加や家畜の増加が環境に悪影響を与えているので、自然から人や家畜を排除すれば問題は解決するという理論です。

しかしこれには科学的根拠がないという見解もあります。

むしろマサイ人は地域の自然や動物に大きな負担をかけることなく共生してきており、マサイ人の管理下において生物多様性が育まれたことは評価されています。

伝統的なコミュニティは地域の自然や水、土地を管理し保全する農業技術などを蓄積してきました。

これを無視した政府の立ち退き要求は正当性に欠けると言わざるを得ません。

立ち退きを強制されてきた住民たちの多くは、自然に害を与えるどころかむしろ自然を守り自然と共生してきました。

古くから伝統的な土地や慣習を維持している住民たちは、世界の総人口の5%未満に過ぎないが、世界の生物多様性の約80%を支えています。

また、狩猟が自然保護に悪影響を及ぼす可能性も指摘されています。

狩猟は大きな経済的利益を生み出しています。

その利益が保護活動への投資に繋がるという意見もありますが、一方で倫理的な問題や人間中心主義が助長されることでより動植物への被害が大きくなるという見方もある。

また国立公園における政府の管理が厳格に行わなければ、違法狩猟が多発し自然保護とは逆効果になってしまう可能性も考えられる。

ンゴロンゴロ保全地域におけるマサイ人の住居(写真:George Lamson / Flickr [CC BY-SA 2.0])

コラム

これまで見てきたように、政府は「自然保護」を利用してその地で自然と共生してきた住民たちを追い出してきました。

多くの住民が本来持つ権利を虐げられ、それによる利益を政府や観光関連会社などは享受しています。

こうした現状に対して、住民たちの権利を守るためにアフリカ生活文化同盟(Pan Afrikan Living Cultures Alliance : PALCA)が設立されました。

これはアフリカの住民たちが主導するNGO団体で、住民たちの権利保護をはじめとし、言語保護や住民による天然資源の管理を促進するなどの活動を行っています。

またPALCAを含む複数の団体や住民の代表者が集い、映像を通じた問題解決を図る集会も開かれています。

また、政府の利益とマサイ人の権利を守ることは矛盾しないという意見もあります。

実際にケニア北部にある保護区では、一定の制限の下で住人に牧草地を提供しています。

計画的な牧畜が可能になったことで、住民は必要以上に家畜を増やさずにすみ自然への影響も最小限にすんでいます。

さらに、住人を保護区内における観光業で雇用し、利益の一部を渡しています。

このようにマサイ人の牧畜民としての生活と観光業とが上手く両立されている例もあります。

しかし、立ち退きの悲惨な現状が理解されないことには問題の解決は難しいです。

多くの人は、美しい自然を「人が存在していない自然」としてイメージしがちです。

その風景を観光客が期待し、政府は観光業を促進するために期待された風景を用意しようとしています。

こうした観光客のイメージも自然保護を名目とした介入に関係しているという事実を、まずは理解しなければいけないのではないでしょうか。

またこれまで述べてきたように、政府による住民立ち退きが目的として主張している自然保護に繋がっているかは疑問の残るところですよね。

自然保護という甘い言葉の裏に隠された暴力行為を見過ごさず、自然を守り自然と共生する住民たちの権利を守っていく必要があります。

そうすることで「人」も「自然」も守ることにつながっていくことを期待したいですね。

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