報道されない空爆の実態とは?(1)

みなさんこんにちは、コクレポです。

現在5月14日、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザに対する空爆が続いています。

バイデン大統領は、この空爆について、「著しい過激反応ではない」とコメントしています。

10日以降のイスラエルの空爆で死者は子ども含む100人を超えましたが、バイデン大統領は現時点では空爆を正当と認めていることになります。

アメリカのお墨付きをもらえば、イスラエルが攻撃を強めるかもしれません。

2020年2月、アメリカ政府がソマリアに2件の空爆を行い、過激派組織の一員を殺したことを報じました。

でも、実際犠牲になったのは過激派組織の人間ではなく、2人の一般市民でした。

毎年、世界では大量の空爆が行われていますが、それがきちんと報道されていることは実は少ないです。

また、上の例のように、政府による発表のみに頼っていては別の事実が見えないままになっているかもしれません。

さらに、もしかすると空爆をする国、される国によって報道に偏りがあるのかもしれません。

空爆のために犠牲となった人々が数多くいること、それも多くの民間人が巻き込まれていることを、メディアは伝えることができているんでしょうか?

今回の記事では、空爆の実態を、そして次回の記事では、メディアが正確に把握・反映できているのかを複数の観点から調べてみます。

2004年にイラクで行われた空爆の様子(写真:Thomas D. Hudzinski/Wikimedia Commons [ Public Domain ])

空爆の実態

まず、空爆とその実態について説明したいと思います。

空爆とひとくちに言っても種類はさまざまで、たとえばパイロットに操縦されている爆撃機によるものもあれば、まったく遠く離れた場所から無人のドローンを操縦することで空爆を行うものもあります。

このドローンによる攻撃は昨今の空爆において使用の割合が高くなってきています。

また、爆弾の種類は大きさ、破壊力、誘導システムなどによっても分類することができます。

誘導システムについていえば、無誘導の「樽爆弾」と呼ばれるものがあり、自由落下に頼った爆撃を行います。

さらに、標的に向かって狙撃することのできる精密誘導のものもあります。

では誰がどこに空爆を行ってきたんでしょうか。

紛争データを収集している非政府組織ACLED(Armed Conflict Location and Event Data Project)によれば、2010年から2019年までに世界で行われた空爆の総数は、把握されているものだけで53,726件あります。

これはあくまでも把握されている空爆の最低件数なので、爆撃の数はさらに多いことが予測できます。

ドローンを多用しているアメリカ軍でさえも、正確に空爆の数や死傷者数を把握できてなく、アメリカは追跡しにくいドローン攻撃を「例外」とし、そのデータを計上しなくなりました。

この期間に空爆を行った国については、サウジアラビアアラブ首長国連邦(UAE)が率いる連合、アメリカと西欧諸国が率いる連合、ロシアとシリアが率いる連合が8割以上を占めています。

そして同じ期間に空爆された国の9割を、シリア、イエメン、イラク、アフガニスタンの4カ国が占めているというのが現状です。

空爆を行う目的はいくつか考えられます。

空爆は主に、敵対勢力の戦力を破壊する、もしくは戦意を喪失させるために使われます。

具体的には、敵対勢力の指導者を暗殺すること、敵対勢力を支えるインフラや社会を壊すことなどです。

イランの軍司令官・ガーセム・ソレイマーニー氏が、アメリカのドナルド・トランプ政権によって殺害されたこともその一例です。

また、自国への攻撃に対する報復として空爆を行うこともあります。

でも、空爆は必ずしも標的のみを狙撃しているわけでなくて、多くの一般市民の犠牲も付いてしまいます。

たとえば、シリア政府は反政府勢力に対して樽爆弾を多用してきたために、軍事的な効果も疑わしいまま市民が無差別に犠牲になっています。

また、精密誘導の爆弾を使用し、標的を狙って爆撃を行ったとしても、その破壊力のために周辺の人々まで犠牲になることも多いです。

さらに、地上で集めた標的に関する情報が間違っていれば、狙った標的に爆弾を届けることができたとしても、誤爆となってしまいます。

技術の問題で標的を外すこともあります。

アメリカ軍の戦闘機(写真:TSGT Michael Ammons, USAF/Wikimedia Commons [ Public Domain ])

たとえば、2008年にロシアがジョージアとの紛争で落とした爆弾のうち、半分は標的を逃したうえ40%が不発弾でした。

この紛争では、標的を外した空爆が近くの住民アパートを誤爆するということも起こりました。

当時よりは爆撃の精度が改善されているにしても、2015年にロシアがシリアに落とした爆弾はまだ多くが無誘導爆弾でした。

また、カナダがイラクにおいて使用した、狙撃の精度が高いとされている「スマート爆弾」も、使用された606弾のうち17弾は的を外しました

アメリカがアフガニスタンに対して行った空爆においても、犠牲となった人々のうち約90%は本来の標的ではなかったようです。

それでも「過激派」や「テロ組織の一員」を殺害したと報告されることは多いです。

空爆の被害

空爆の及ぼす被害の実態について、もっと詳しく例をあげてみましょう。

たとえば、2015年以降、サウジアラビアが率いる連合によるイエメンでの空爆によって、確認されているだけで1万8千人以上の一般市民が死傷しています。

無差別空爆とも言える状況の中、多くの病院、学校なども空爆を受けています。

このような空爆が、世界最大の人道危機を引き起こしています。

また、アメリカでは中央情報局(CIA)が行ったイエメン・パキスタンでのドローン暗殺計画において、41人の標的を暗殺することに失敗しています。

それに加えて1,147人の市民を巻き添えにしていました。

サウジアラビアの空爆等により深刻な被害を受けたイエメン首都サナア(写真:ibrahem Qasim CC BY-SA 2.0)

ドローンを使った空爆はすでに多用されていて、アメリカのドローン攻撃はもはや「テロリズム」であると批判されています。

さらに、イラクやシリアでのIS(イスラム国)に対する空爆によって、多くの一般市民が殺害されています。

でも、アメリカ軍が爆撃地に足を踏み入れてきちんと視察を行って、市民犠牲者を調査することはまれです。

空からの攻撃は被害が見えづらいために、確認された死傷者の数が実際のものよりも低く見積もられています。

さらに、先にも書きましたが、シリア政府によっては無誘導爆弾ばかりが使われてきました。

シリア政府が国内を空爆する際に大きな破壊力を持ったこの爆弾を使用したために、民間人と軍人の区別さえ行われず、一般市民に大きく被害が及んだんです。

今回のイスラエル軍のガザ地区への攻撃も、居住エリアに無差別にロケット弾が撃ち込まれています。

イスラエルによる爆撃を受けたパレスチナのガザ地区の様子(写真:Oxfam International/Flickr [ CC BY-NC-ND 2.0])

コラム

「過激派組織がいるので、空爆を行います」って、その国の市民を想っての行動のように聞こえますが、空爆がそのターゲットだけを狙って、市民を巻き添えにしないことはほとんどないんです。

空爆がどのような被害を生むのか、アメリカ側からの視点が多い日本の報道ではなかなか理解しにくいかもしれません。

次回の記事では、空爆被害とそのギャップを詳しく説明しています。

また、世界の紛争はなぜ続く?闇すぎる武器ビジネスとは?記事では、紛争の原因の大きな要因も解説しているので、ぜひ読んでみてください。

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