人類が直面しているコロナ以外の保健医療危機(2)

前回記事で、コロナだけじゃない世界全体で起こっている保健医療の危機的な状況を解説しました。

前回紹介した根本的な原因や、長期的にこれから発生するかもしれない感染症について、ちゃんと報道していれば、世界全体で対策を早めに打てますよね。

そうしていれば、今回のコロナもこんなに大きい被害にならずに済んだかもしれません。

今回は、この危機的な保健医療に関する報道はどうなっていたのか、分析してみたいと思います。

コロナ関する報道量の分析

はじめに、日本の国際報道におけるコロナ報道はどれほどの割合を占めていたんでしょうか?

GNVは新聞・SNSのそれぞれ1つずつの媒体について分析を行っています。

新聞に関しては、読売新聞の2020年3月から同年7月までの5か月分の報道を調査しました。

4,684記事の全ての国際報道のうち、コロナに関する報道は2,742記事、つまり約60%を占めています。

SNSに関しては、LINEニュースダイジェストの2020年3月から7月までの5か月分の調査を行っています。

339記事の国際報道のうち、219記事が新型コロナウイルスに関する報道で、約65%を占めていました。

コロナで見逃された出来事・現象

このように、国際報道のうち、コロナに関する報道が長期にわたって大きな割合を占めています。

でも、前回紹介したとおり、コロナの発生と同じ時期に、他にも世界各地で人々を脅かす危機がいろいろ発生していましたよね。

サバクトビバッタの大発生はコロナ以上かそれと同じくらい人命を脅かす存在でしたが、読売新聞でバッタ発生に関する記事数は2020年3月から7月の間にたった2つだけでした。

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南アジアのサイクロンや、サヘル地域の紛争による食糧危機も、読売新聞では関連する内容の報道はありませんでした。

既存の保健医療危機の報道

2019年12月に発生したコロナによる死者は、2020年8月末の時点で84万人でした。(現在2021年4月3日時点では284万人)

でも、世界には、コロナ以外にも普段から多くの命を奪っている危険な病気がたくさんあることを前回紹介しました。

メディアはこの事実を、規模に見合った量で報道してるんでしょうか?

そこで、GNVはコロナが発生する以前の2019年度の読売新聞のデータをもとに調査を行いました。

世界の人々の主な死因は汚染による病気でしたよね。

2019年、大気汚染は世界で4番目に多い死因であり、約670万人が死亡しました。

でも、読売新聞の2019年の1年間の国際報道の中で、汚染の人命に対する脅威に関するものはたったの2記事だけでした。

また、コロナ以外の感染症についてはどうでしょう?

結核の死亡者は年間約150万人、HIV/エイズに関連する病気の死亡者は、年間約69万人です。

インフルに関連する呼吸器疾患の死亡者は、毎年最大65万人、そして年間約44万人がマラリアで死亡しています。

読売新聞では2019年の1年間の国際報道で、それぞれの人命への脅威について、結核に関しては4記事、HIV/エイズに関しては1記事、季節性インフルエンザに関しては1記事、マラリアに関しては2記事だけしか報道されていませんでした。

どうしてこれほど大規模な保健医療危機がほとんど報道されていないんでしょう?

どうしてコロナに関する報道量とこれほど大きな差があるんでしょう?

その理由の1つは、日本国内の犠牲者が少ないことだと思います。

また、こうした保健医療危機の犠牲者の多くが、低所得国の人だからということが考えられます。

日本では低所得国の問題がなかなか報道されないからです

また、メディアが「新しい」危機にばかり焦点を当てていることも理由として挙げられます。

コロナの犠牲者数よりも多い、もしくはそれと同等の人数の人が苦しんでいても、現状が「通常」の状態であるかのように扱われています。

そして、コロナはその性質についても治療法についても未知の要素がまだ大きいです。

そのため、今後感染がどれほど拡大するのか、どれほどの命を奪うのかがわからない分恐怖や関心も湧き、より注目が集まる側面もあると思います。

つまり、純粋な人命に対する脅威の規模は、報道の判断材料にはなっていないんですね。

今後やってくる保健医療危機の報道

現在、気候変動による保健医療の危機がどんどん深刻化しているんでしたよね。

でも、朝日新聞の2019年上半期において、気候変動に関するキーワードがタイトルに含まれている記事は16件のみでした。

また、NHKは「気候報道を今(Covering Climate Now)」運動のパートナー機関として参加していたにもかかわらず、2020年4月に実施されたキャンペーン期間を含む1ヶ月間で、気候変動関連のニュースは1つだけでした。

現在も十分に人命への脅威で、さらに将来的により深刻化する気候変動に関して、メディアはその状況に見合った量・内容の報道を行っているとはとても言えません。

また、今後さらに重大な人命の危機となる、薬が効かなくなる問題、薬剤耐性についてはどうでしょう?

薬剤耐性によって死亡する人は、毎年約70万人もいて、2050年までに死亡者は世界中で年間1,000万人に達すると予測されています。

でも、2019年の1年間における読売新聞の国際報道で取り扱ったものはありませんでした。

感染症の原因の報道

感染症の発生・拡大の主な要因として、森林伐採、畜産業、地球温暖化を紹介しました。

森林伐採によって、野生動物が人間の集団に近づいて、人畜共通感染症(動物から人間に感染するコロナのような感染症)が人間に感染する可能性が高まるんでしたよね。

またウイルスが、永久凍土層に保存されている可能性が高いことも紹介しました。

でも、読売新聞の2019年1年間の国際報道では、森林伐採に関する記事は1記事だけ、畜産業の脅威について指摘する国際報道の記事や、永久凍土の溶解による感染症発生の脅威を指摘したものはゼロでした。

コラム

コロナが報道を独占することで、その他の保健医療の危機について知ることはとても難しい状況になってしまっていましたね。

私がザンビアにいたときまさしくバッタの大量の群れが東アフリカにきていて、周辺国が大変な食糧難になっているというニュースが毎日のように報道されていました。

コロナで身に染みたとおり、世界はみっちりつながっていて、他の国で起きていることも知らないと将来の自分自身を危機に追い込むことになるかもしれません。

報道も、現在起こっている保健医療危機について、その発生中だけ報道を集中させるんじゃなくて、これからやってくる似たような保健医療危機に備えるために、深く長期的な視点で報道をしていく必要があるんじゃないでしょうか?

長期的な目で世界の現状を捉えて、対策を行えば、コロナのような危機的な感染症を予防したりその影響をやわらげたりすることができます。

また、このようにメディアがちゃんと報道してれば、世論が動いて対策につながる行動が増えて、コロナ被害がこんなに大きくならなかったかもしれません。

メディアの報道の仕方について、みなさんもちょっと考えてみてください。

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