報道の実態
前回記事では、石油業界の様々な動向を見てきましたが、日本のメディアはこのような動きを伝えることはできているんでしょうか?
また、日本における石油関連の国際報道には、どのような傾向がみられるんでしょうか?
GNVが2017年10月1日から2020年9月30日までの3年間、毎日新聞の国際面に掲載された記事のうち、記事の中に「石油」「原油」「重油」の単語が含まれている記事を集計しました。
その結果、計492記事と、比較的少ないものとなりました。
これらをもとに、まず登場した国・地域、記事の内容について分析を行いました。
はじめに、報道された国別で傾向を調べました。
以下のグラフは、全492記事の中に登場した回数の多かった国トップ10を掲載しています。
報道量が最も多かったのはアメリカで、計108記事(22.0%)です。
普段から日本の報道に注目されていて、世界の主要産油国のトップであるアメリカが一位を占めているのは不思議ではありません。
また、アメリカのほかに、イラン(12.1%)、サウジアラビア(8.2%)、ベネズエラ(4.5%)、ロシア(4.0%)、中国(2.7%)のような主要産油国に関する報道も比較的に多いです。
日本は主要産油国ではなく、国際面に絞ったにもかかわらず、輸入国として石油・原油の価格の変動に影響を受けるため、日本に関する記事が多いです。
モーリシャス(2.2%)がこのランキングに入っている理由としては、日本企業の所有・運行する貨物船が2020年にモーリシャスの沖合で重油流出事故を起こしたことが挙げられます。
では、報道の内容を見てみましょう。
石油に言及した492の記事を、石油が記事の中心的な話題となっていた記事に絞り込みました。
該当する149記事の内容を以下のように分類しました。
報道の内容の多くは、サウジアラビア石油施設攻撃などの石油をめぐる紛争や、アメリカによるイランと北朝鮮に対する原油の禁輸制裁という政治的摩擦についてです。
石油をめぐる紛争・摩擦に関する記事は59記事となり、39.6%を占めています。
次に多く報道されているのは、原油先物相場や国際収支などにおける石油価格(24.2%)です。
石油関連事故のカテゴリーは11.4%を占めていますが、17記事のうち、13記事は前述したモーリシャスにおける重油流出事故についての記事でした。
また、石油生産関連のカテゴリーには、近年石油の供給が需要を上回っていることを受け、石油の減産をめぐる議論が多かったです。
その次の石油会社に関する記事は、主に石油メージャ出光興産(日本)と昭和シェル石油(日本)の統合について報道されていましたが、サウジアラムコの株価と企業価値の報道もありました。
報道されない石油業界の傾向
最後に、報道されていない石油業界の側面を取り上げます。
石油が中心テーマとして書かれた149記事の中でみると、まず、石油が気候変動への影響についての記事はひとつもありませんでした。
さらに、先ほどの調査からわかるように、石油業界による他の環境破壊に関する報道もわずかしかありません。
石油漏れに関しては、モーリシャスの重油流出事故しかありませんでした。
また、そのモーリシャスの重油流出事故に関する報道でさえ、現状を十分に反映しているとは言えないものです。
この事故を題材にした3記事のうち、環境破壊とその清掃活動を中心にした記事は1記事のみです。
残りの12記事の内容は重油流出に対する賠償請求と処理でした。
さらに、石油からのダイベストメントという近年加速している大きな動きの現状、メリット、デメリットなどについての情報はありませんでした(※)。
※ 石油が中心テーマでない過去の記事では、ダイベストメントを取り上げられることはありましたが、とても少ないです。
また石油との関連で紹介された再生可能エネルギーに関する記事は7つしかありません。
その内容も充実しているとも言えません。
たとえば、2018年2月21日に掲載された「石油:世界需要、30年代ピーク 再エネ、EVで鈍る 英BP予想」という記事は、「再生可能エネルギーの伸びが著しい」という石油メジャーBPの関係者からのコメントにとどまり、石油業界からのダイベストメントなどを含む理由や背景に言及することはありませんでした。
2020年10月の報道の中で、再生可能エネルギー会社が初めて、時価総額で世界最大のエネルギー会社となったというエネルギー業界における重要な展開は報道されませんでした。
コラム
多くの国で、温室効果ガスの排出規制、脱炭素に向けた国際的な取り組みか始まっています。
2020年10月に日本は脱炭素目標を宣言し、化石燃料を使用した従来の発電の仕方を、再生エネルギーに転換する姿勢を示したとはいえ、ほかの国の取り組みに遅れをとっています。
石油をはじめとした化石燃料に関する報道を改善して、世界の潮流を知ることが、脱炭素社会を実現する第一歩になるんじゃないでしょうか?