抗生物質が効かない!スーパーバグ死者が世界で急増中!?

みなさんこんにちは、コクレポです。

抗生物質が「効かない」時代がすぐそこまでやってきているって知ってますか?

抗生物質に耐性を持つ「スーパーバグ」(薬剤耐性菌)が発生して、いままでは可能だった感染症の予防や治療が困難になるケースが世界中で急増しているんです。

スーパーバグによる感染症で死亡する人の数は、なんと世界で年間約75万人にも。

抗生物質とは

抗生物質とは、細菌などの微生物の成長を阻止する物質のことです。

肺炎や結核、細菌性食中毒、膀胱炎など、あらゆる細菌感染症に効果があります。

それが 「効かない」 時代が来ているってどういうことなんでしょう?

事例紹介:一人の少年から見る抗生物質耐性問題

イギリスのインディペンダント紙が取材したある事例が、この抗生物質耐性問題の恐ろしさを物語っています。

インド・デリーにすむ15歳の少年ラマンは、友人と遊んでいる際、咳をしたときに痰に血が混じっていることに気が付きました。

帰宅した後、母親と一緒に病院を受診すると、ラマンは結核だと診断され、4種類の抗生物質が6か月間処方されました。

病気の症状と薬の副作用によって、ラマンはめまいや吐き気、脱力感に悩まされました。

しかし半年たっても症状は一向に良くならず、さらに3か月間の服薬を続けました。

それでも回復しなかったため、別の病院で精密検査を受けました。

すると、多剤耐性結核(MDR-TB)にかかっていたことが判明しました。

9か月間服用していた薬のうち2つがラマンには効果がないもので、いまだに結核に感染した状態だったんです。

ラマンは、さらに6か月間注射を続け、加えて異なる抗生物質をいくつか服用し、さらに2年間の治療が必要となりました。

このような長期間にわたる服薬治療により、患者は体力が低下し、時には難聴など深刻な副作用に苦しむこともあります。

また治療費が高額であることから、家族は貧困に苦しむこともあります。

しかしこの治療をもってしても、多剤耐性結核患者の半分以下しか治りません。

また、これよりももっと危険なケース「超多剤耐性結核」が存在します。

これは従来の多剤耐性結核よりも広範な抗生物質に耐性を持つ耐性菌が原因となった結核で、これに罹ると治る可能性が3分の1ほどしかありません。

多剤耐性結核を患っているインドの子ども(写真:CDC Global / Flickr [CC BY 2.0])

このような薬剤耐性菌の存在は、結核だけではありません。

今や全ての抗生物質に対して耐性を持つ細菌が見つかっています。

なぜ抗生物質が効かなくなっている?

抗生物質耐性やスーパーバグの蔓延を招く最大の原因は、世界中での抗生物質の過剰使用と不適切な処方・服用です。

これにはいくつかの側面があります。

抗生物質の過剰使用

まず、人間が抗生物質を服用しすぎているっていうことです。

不要なのに、抗生物質を処方する・服用するケースが多発しているんです。

たとえば、ほとんどの風邪やインフルエンザなどのウイルス性の病気です。

抗生物質は細菌には効果がありますが、ウイルスには効果はありません

それにもかかわらず、多くの人は、風邪やインフルエンザは抗生物質によって治るものだと信じきっていて、抗生物質を求めてしまいます。

これにより不必要な場面で抗生物質が処方されることが多くなり、過剰使用を招いています。

また医師が処方した抗生物質を、症状が改善したからといって自己判断で服用を中止したり、余った抗生物質を別の機会に使用したりするケースもあり、これもスーパーバグの繁殖を招く要因となっているんです。

ジフテリア菌(写真:Sanofi Pasteur / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])

特に発展途上国では、予算が十分にないために適切な薬が手に入らず、身近にある抗生物質を不適切に処方してしまったり、政府や医療機関での管理体制が整ってなくて、薬の処方に関するデータの記録が不十分だったりというケースも多いです。

このように抗生物質耐性問題の背景には様々な原因が複合的に作用していて、対策は一筋縄ではいかないようです。

家畜に対する過剰使用

さらに、家畜に対する過剰使用も大きな原因の1つです。

抗生物質の全使用量のうち、約半分の量が家畜に対して使用されています。

家畜の病気を予防し成長・繁殖を促進するために、健康な動物に対して大量の抗生物質が使われているんです。

この結果、人間と同じく、家畜・動物からもスーパーバグが出ていて、動物においても「治らない」病気の蔓延が懸念されています。

さらに動物で発生した薬剤耐性菌が人間に伝染することもあり、動物におけるスーパーバグ問題はかなり深刻なものとなっています。

豚舎で飼われている子豚(写真: Natural Resources Conservation Service / Wikimedia (Public Domain)

このように、抗生物質を人や動物が過剰使用してしまうことにより、それに耐性のある細菌が加速度的に発生してしまい、結果として治る病気も「治らない」状態を生み出しているんです。

進まない抗生物質の開発

さらにこの状況を悪化させているのが、多くの大手製薬会社が新しい抗生物質の開発から撤退していることです。

スーパーバグの課題は、スーパーバグに対抗するための新薬を開発することで、それが「今」耐性菌に苦しんでいる人々を救う唯一の手段です。

また、抗生物質が適切に使用されていたとしても、細菌は常に進化を続けます。

人類の健康のためには新しい抗生物質の開発が必要不可欠です。

しかし、多くの製薬会社は、新しい抗生物質の開発は「低収益だ」として着手したがらないんです。

抗生物質よりも抗がん剤を開発した方が2倍の収益を上げるともいわれています。

コロナの新薬は550以上開発されましたが、 過去30年間で、新たに開発された抗生物質はほとんど存在しないんです。

人類は抗生物質耐性を止められるか

このまま抗生物質耐性問題に対して何も対策を取らなければ、2050年には年間1,000万人もの人々がスーパーバグで死亡すると推定されています。

この数字はガンによる死亡者数を上回るものです。

特に、アジア・アフリカ地域においてかなりの死者が出ると予想されていて、そのはアジアで473万人、アフリカで415万人にも上ります。

またヨーロッパやアメリカでも、それぞれの地域で年間30万人近くがスーパーバグが原因で死亡することが予想されています。

またそれだけではなく、経済的な損失は1年で100兆米ドルを超えるとも。

現在、WHOが中心となって世界中の国や機関を巻き込み、早急に様々な対策を打ち立てています。

ここではそのうち二つの対策を紹介します。

まず一つ目に「グローバル抗菌薬耐性監視システム(GLASS)」です。

これは世界レベルでの抗菌薬耐性に関するデータを収集・分析・共有することのできるシステムで、地域社会や国に対し、薬剤耐性問題への対策を促進する目的です。

次に、「グローバル抗生物質研究開発パートナーシップ(GARDP)」があります。

これは2016年にWHOとDNDiによって設立された非営利組織で、国境を越えた官民の連携を通じて新たな抗生物質の研究開発を推進しています。

既存の抗生物質の改善と新しい抗生物質の開発促進を通じて、2023年までに4つの新しい治療法を開発・提供することを目指しています。

東南アジアの家畜における抗生物質耐性に関する実験授業(写真:Richard Nyberg, USAID Asia / Flickr [CC BY-NC 2.0])

2018年11月にはアメリカ・スタンフォード大学の化学者らが、薬剤耐性菌の一つ、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による感染症の新しい治療方法を開発しました。

新しい抗生物質を開発するのではなく、既存の一般的な抗生物質に添加剤を付与するだけで、薬剤耐性菌による感染症に効果があることが分かったんです。

コラム

スーパーバグ問題、個人的にめっちゃこわいなと思いました。

解決に向かうためには、いろんなアクターによる取り組みが必要です。

政府機関には、抗生物質の使用やスーパーバグによる感染症に対して監視・管理体制を強化すること、また製薬会社に対して抗生物質の開発へのインセンティブを与えることなどが求められます。

医療機関・医療従事者には、医学的に必要とされる場合にのみ抗生物質を処方すること。

農業関係者には、健全な家畜の成長促進や病気予防を目的とする抗生物質投与を行わないことが求められます。

また患者側にも、医師が不要と判断した際には抗生物質の処方を求めないこと、抗生物質の服用を自己判断で中止しないこと、余った抗生物質を別の機会に使用したり他の人と共有したりしないことが求められています。

はたしてこれらの対策は、驚異的なスピードで進化を続ける細菌・スーパーバグに打ち勝つことができるんでしょうか。

勝負の行方は、人類がいかに本気でこの問題に取り組むことができるかにかかっているのでは?

スーパーバグの脅威は、もうすでに人類の健康を猛スピードで奪いつつあります。

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