スウェーデンの軍事産業:平和な中立国の裏側では戦争人権侵害!?

みなさんこんにちは、コクレポです。

スウェーデンって聞くと、平和を好む中立国を思い浮かべる人は多いのでは?

でも、そのイメージに反して、スウェーデンは世界でもトップクラスの武器輸出大国なんです。

平和を好むイメージがついたこの国で、なんで軍事産業が盛んなんでしょう?

輸出されているスウェーデンの武器が防衛だけでなく、戦時中の人権侵害に使われていることが指摘されています。

また、武器売買において取引を成立させるために賄賂が支払われているのではないかと問題視されています。

これらの問題の現状はどうなっているんでしょう?

イメージとかけ離れたスウェーデンの実態を探ってみましょう。

スウェーデン製の戦闘機(サーブのグリペン戦闘機)(写真:Robert Sullivan/Flickr[public domain])

スウェーデンの軍事産業

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、2020年の世界の軍事支出は過去最高の約2兆ドル(約216兆円)に上り、スウェーデンは世界14位の武器輸出国になりました。

2020年の時点でスウェーデンの武器売上高は2億8,600万米ドルとなっています。

スウェーデンの軍事産業の規模を表すものとして、約80の武器製造会社からなるスウェーデン防衛産業協会(SOFF)という組織があります。

それぞれの会社がスウェーデンで活動する最良の条件を作り、市場の利便性を高め、貿易量をさらに大きくするために設立されたものです。

SOFFは100か国以上の国に輸出をしていて、60%は戦闘用の武器、残り40%は非戦闘用の軍事用品を輸出しています。

販売先としては、スウェーデンを含む北欧諸国に最も販売していて、アジアと中東、北欧以外のヨーロッパと続きます。

また、SOFF全体の収入は約30億6,000万ユーロで、そのうち16.1%は研究開発に充てられています。

こうしたSOFFの実態からも、スウェーデンにおける軍事産業がいかに盛んであるか分かります。

サーブのヴィスビュー級コルベットのステルス艦(写真:Mark Harkin/Flickr [CC BY 2.0 ])

ここで、スウェーデンで最も大きな武器製造会社であるサーブ(SAAB)について紹介します。

元々は航空機・軍需品メーカーだったが、サーブ・オートモービルという自動車製造部門が一般的に「サーブ」として知られています。

サーブは2011年に自動車製造を終了し、武器製造を発展させてきました。

2000年代にはボフォース(Bofors)やコクムス(Kockums)などの大手武器製造会社を買収し、さらに拡大を成し遂げました。

現在の従業員は17,822人です。

代表的な武器はグリペン戦闘機、ヴィスビュー級コルベットのステルス艦、ゴトランド級潜水艦、カールグスタフという無反動砲です。

なぜ軍事産業が盛んなのか 

スウェーデンの軍事産業の歴史は長いです。

1500年代まで、スウェーデンでの武器製造はあまり盛んではなく、しばしばその他の欧州諸国から武器を輸入していました。

でも、1600年代前半から、当時の王であるグスタフ・アドルフ2世の要請によってスウェーデンの軍事産業が本格的に確立されていきます。

1800年代初頭のナポレオン戦争時では、スウェーデンはフィンランドを失い、その後中立政策をとりましたが、1930年代にドイツの台頭から脅威を感じたスウェーデンは「武装した中立」政策をとり、防衛予算も武器製造も急増しました。

その後、冷戦下では、北欧諸国の中で、アメリカを盟主とする資本主義・自由主義陣営と、東側諸国のソ連を盟主とする共産主義・社会主義陣営との対立に挟まれながら、中立の立場を貫きました。

2009年には軍事的中立の立場をやめ、2011年にはリビア紛争への軍事介入にも参戦しました。

このような歴史の名残があるため、スウェーデンは不安定な地理的状況に置かれていたと言えます。

そのため、スウェーデンは自身を守るために武器製造の必要があったという主張で軍事産業を正当化する意見があります。

でも、スウェーデンの武器は自国防衛のためだけでなく、大量に輸出もしています。

現在、スウェーデンの軍事産業は外交政策の一環としても盛んです。

スウェーデンは、ラテンアメリカやアフリカ、一部のアジア諸国に武器を販売することで、グローバルサウスとの関係を戦略的に強化させようとしています。

そのために、武器を安価で販売することに加えて、販売先への技術移転を積極的に行っています。

実際、スウェーデンは南アフリカやインド、ブラジルなどのグローバルサウスの国々と武器売買の契約を結んできました。

また、武器を販売することで得られる商業的利益もスウェーデンにとって重要です。

スウェーデンの大きな産業である軍事産業は、スウェーデンの経済に貢献していると考えられています。

それに加えて、スウェーデンは自国の技術力を誇っています。

軍事産業は国のプライドであり、ブランド力を守るためのものです。

他国に武器を販売することでスウェーデンの世界的に優れた技術力をアピールしプライドを見せつけ、その他の業界進出も狙っています。

他にも、労働需要を生み出すからという理由が挙げられます。

人口約15万人を誇るリンシェーピング市にサーブの工場があります。

リンシェーピングでは、サーブは5,000もの人を雇用し、航空業界を含むと15,000人が雇われていて、この街の人口の10%にも上ります。

下記の航空写真からその工場の様子を伺うことができます。

つまり、スウェーデンと他国が武器売買の契約を結べば、リンシェーピングは活性化されます。

リンシェーピングはサーブとともに発展してきたため、リンシェーピングの住民も政治家もサーブを支援しています。

軍事産業と人権侵害

このように、軍事産業はスウェーデンの経済と国力に貢献しているようですが、一方でスウェーデンが製造する武器が輸出先でどのように使われているのかが問題視されています。

たとえば、スウェーデンはサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、パキスタン、カタールやブルネイなど、非民主的な国に武器を輸出してきた経緯があります。

それらの武器がそれぞれの国の国民に向けられる危険性もあれば、防衛だけでなく、国外での武力紛争で人権侵害などに使われる危険性もあります。

ここで、イエメン紛争で非人道的な攻撃を続けているサウジアラビアやアラブ首長国連邦にスウェーデンが武器を販売していることが問題となっています。

サウジアラビアは、スウェーデンからエリアイというレーダー追跡装置や対戦車誘導ミサイルといった武器を購入し、イエメンに対して戦争犯罪ともいえる攻撃を続けています。

2015年3月に始まったこの紛争で、91,600人もの人々が戦闘で殺されたと推定されています。

また、2015年から3年間で、5歳以下の子供が85,000人も餓死しました。

ミドル・イースト・アイ(MEE)によると、スウェーデンは、2015年から2016年の間にアラブ首長国連邦とサウジアラビアに13億3,000万米ドルの武器を販売しました。

このような状況の中で、スウェーデンはイエメンに支援を送っています。

スウェーデンは2015年から2018年の間に1億500万米ドルを国連のイエメン人道対応計画に寄付しました。

でも、これはサウジアラビアやアラブ首長国連邦に対するスウェーデンの武器販売額のたった7.93%です。

2018年、当時のスウェーデンの外務大臣は、中東の国々の非人道的行為に対して懸念を示し、近年のスウェーデンからサウジアラビアに対する輸出は非常に制限されていて、2015年からは新しい武器を輸出することは許可していないとフェイスブックで述べました

また、スウェーデンの戦略的製品の調査団(ISP)は、過去5年間でスウェーデンはサウジアラビアと武器販売の新たな契約を結んでおらず、現在スウェーデンから輸出されている武器は以前締結した契約によるもので、大抵は予備の部品や設備維持に関わるものだと主張しています。

さらに、スウェーデンは、2017年に武器輸出に関する法律を修正し、その内容は非民主主義国家への武器輸出を制限するものとなっていますが、輸出への本格的な影響はあまりありません

武器取引反対運動(CAAT)は、現在スウェーデンが輸出している武器は、たとえ今輸出をやめたとしても、これから約30年間使用され続けるだろうと述べています

なぜなら、武器の寿命自体はそれほど長いものだからです。

多くの犠牲者が生まれ人権侵害が深刻となるイエメンにとって、必要なものは武器ではなく支援です。

空爆で破壊されたイエメンの学校(写真:United Nations OCHA/Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])

軍事産業と賄賂

スウェーデンの軍事産業を取り巻く問題の中で、人権侵害の問題のほかにも議論を呼んでいるものが賄賂です。

スウェーデンでは、サーブをはじめとする武器製造会社が武器の販売を促進しライバル会社に対抗するために武器売買の取引先にお金を支払うといった違法なやり取りが報告されています。

たとえば、1999年、サーブは南アフリカ共和国と28機のグリペン戦闘機を販売する契約を結び、のちに機数は26に削減されました。

この取引において、サーブは2,400万ランド(およそ4億6,320万円)もの賄賂が政府関係者に支払われたことを認めました

しかし、サーブは、これは以前の共同事業者であるイギリスの武器製造会社BAEによって支払われたと主張し、自身の責任を一切否定しました。

ところが、エクスプレッセンというスウェーデンの新聞に記載された文書によると、BAEの関係者は、南アフリカとの取引に関与する事柄をすべてサーブに知らせていたと主張しました

つまり、BAEの主張によればサーブは南アフリカ共和国とBAEとの取引について認知していました。

この南アフリカ共和国とスウェーデンとの武器売買や賄賂をめぐる問題は激しい議論を呼びました。

スウェーデンに対する武器購入の支払いは2022年まで続くと言われていますが、南アフリカ共和国では、貧困、犯罪、失業など武器とは関係のない問題が山積みで、そのような問題の解決に金銭を注ぐべきだという批判があります。

そして、購入された高価な武器は、維持に莫大な費用がかかるために使用されず、埃を被ったままとなるんです。

実際、南アフリカの政府は、資金と操縦士不足のために、購入したグリペン戦闘機のうち2019年は5個しか稼働していないことが明らかになりました。

また、2000年代前半、サーブとBAEは、グリペン戦闘機の販売を促進するために、チェコ・オーストリアに賄賂を支払っていたとされています。

その額は実に1億5,000万米ドルです。

この不透明な取引はドキュメンタリー番組で明らかになりましたが、サーブもBAEもこの事実を否定しました。

この賄賂は国際的な注目を浴びたため、スウェーデンを含む少なくとも7つの国で国際的な調査が行われ、BAEの関係者がグリペンの販売取引において賄賂や資金洗浄を行っていたことで逮捕されました。

また、近年、ブラジルとサーブとの間でも武器販売の取引が成立し、不透明なやり取りの疑いがかけられています。

2014年、46億8,000万米ドルにあたる36機のグリペン戦闘機がサーブからブラジルに販売されました。

この取引において、サーブはブラジルの当時の大統領に航空機の購入を促進するために、前大統領に賄賂を支払ったと言われていますが、事実かどうかはまだ判明していなくて、真相は闇の中です。

サーブのカールグスタフ(無反動砲)をイラクで使用する兵(写真:William Hatton/Wikimedia [public domain])

コラム

穏やかで平和なイメージのスウェーデンは、実は軍事産業が発展していて、武器輸出が国の経済や外交を支えてきました。

その上、武器を使用して人権を脅かす国への武器販売や、武器売買に関わる違法で不透明な取引は、他国と複雑に絡み合った深刻な問題となっています。

スウェーデンの武器輸出はこれからまた大きくなるんでしょうか。

武器ビジネスの闇について詳しく書いてる記事もあるので、ぜひ読んでみてください。

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