みなさんこんにちは、コクレポです。
「農業」って言葉を聞いて、みなさんはどんな景色を想像しますか?
広々とした大地に青空のもと広がる「豊かな緑」の風景や、大地を吹き抜ける風に揺れる「黄金に実った小麦や稲穂」の風景。そんな平和で穏やかな風景を想像した方も多いのでは?
「農業」と聞いて、環境破壊や気候変動との関係を思い浮かべた人って少ないんじゃないでしょうか?
実は、現代農業は環境への負荷が高くって、熱帯雨林の消失や砂漠化、湖沼の消滅といった環境破壊の一因で、温室効果ガスの排出源としても大きい領域なんです。
なぜ、緑を育み緑に育まれている農業が、環境破壊や気候変動につながるんでしょう?
ここでは、そのメカニズムを解説し、畜産や酪農を含めた現代農業が抱えるジレンマを紐解いてみます。
気候変動の要因:農業由来の「温室効果ガスの排出」
気候変動は、人類にとっての脅威です。
そんな「脅威」の原因について、ぜひみてほしいデータがあります。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)の報告によると、気候変動の要因である温室効果ガス(※1)のうち、23%が農業から排出されているというんです。
※1:「温室効果ガス」と言っても、いくつかの種類があります。よく知られた二酸化炭素(CO2)も、正確には温室効果ガスのひとつであり、メタン(CH4)や一酸化二窒素(N2O)などが温室効果ガスとして知られ、農業とのかかわりが深いです。
また、経済協力開発機構(OECD)によると、温室効果ガスのうち、17%が農業由来で、加えて7%~14%がその他の土地利用によるものだといいます。
2011年には畜産・酪農を含めた農業分野から二酸化炭素(CO2)換算で5.3億トン以上が排出されていて、1961年の2.3億トンから増加傾向にあります。
どうして「農業」が気候変動につながるの?
どうして、酪農・畜産を含む農業が、気候変動の要因の5分の1になるんでしょう?
これは「農業、酪農・畜産業を行うための開発」と「農業、酪農・畜産業そのものの活動」の2つに切り分けて考えるとわかりやすいです。
それぞれについて、例を示しながらそのメカニズムを解説します。
「農業、酪農・畜産業を行うための開発」
この視点で農業を見ると、まず農地造成のための森林伐採が、農業と環境破壊の関係として挙げられます。
山々を削り、大地を切り拓き、農地や牧草地を生み出す。
この過程で多くの森林が伐採され、気候変動につながってしまいます。
また、過度な焼畑も大きな課題です。
熱帯雨林地域は雨が多く、地表面の土壌が洗い流され養分が不足しています。
でも農業は表土層を用いるため、この養分不足を解決する必要があります。
そこで、森林を焼くことで日の当たる農地を用意すると共に、養分となる窒素や炭素を含む灰を作る「焼畑」が行われています。
この農業手法自体は理にかなっているが、これが森林の再生スピードを超えて過度に行われることで、重大な環境破壊が生じています。
たとえばインドネシアでは、油ヤシのプランテーション開発などのために過度な焼畑が各地で行われていて、森林を焼失させる山火事の原因にもなっています。
「地球の2つの肺」と呼ばれるアマゾン川流域とコンゴ川流域の熱帯雨林では、こうした農業やその他の開発の影響が顕著に現れています。
世界では1分間にサッカーグラウンド14面分(10ha)、年間で北海道の約1.8倍もの森林が、農業や材木伐採、都市開発といった、人間の活動により失われていることが、最新の衛星調査で分かっています。
この調子でいけば、世界の熱帯雨林は100年で消滅する計算になります。
でも、理由はそれだけではありません。
食肉の消費量が増え続けている点も見逃せない背景です。
食肉を生産するためには、その飼料として大豆やトウモロコシなど大量の穀物が必要である上に、牛や豚などを放牧する広大な大地(牧草地)が必要です。
さらに、そうした飼料作物の輸送や大量の水資源も必要であり、生産の過程で多くの温室効果ガスを排出しています。
莫大な土地と飼料・資源を使い、多くの温室効果ガスを排出して生産される「おいしいお肉」は、とっても効率の悪い食品なんです。
ベジタリアン、ヴィーガンって?残酷すぎる畜産の実態・環境への害:お肉の裏側の記事でくわしく書いてるので読んでみてください。
「農業、酪農・畜産業そのものの活動」
イメージしにくいかもしれませんが、実は農業生産活動そのものも環境破壊につながる場合があり、温室効果ガスがこれらの過程からも発生しています。
たとえば、機械化された農業では、土地を耕すところから作物の収穫に至るまで、各所で機械を動かすための化石燃料が消費されています。
また、ビニールハウスを用いた促成栽培では、昼夜を問わず冷暖房が必要な場合があり、エネルギーを消費しています。
このようなエネルギー消費により、温室効果ガスを放出しながら、農業生産が行われています。
また、酪農・畜産業や稲作からは、CO2よりも温室効果が高いメタンガスが生じています。
稲作は、人間の活動が原因のメタンガスのうち約10%を占める排出源です。
土壌に酸素が供給されにくく、そうした環境を好む土壌中のメタン生成菌がメタンガスを発生させます。
発生したメタンガスは、イネの根や茎を通って大気中に放出されていて、回収は難しいです。
そして、酪農や畜産業の領域からは、毎年CO2換算で7.1ギガトン、人為的活動が原因の温室効果ガスのうち14.5%が排出されています。
このうち44%がメタンガスの形で排出されており、家畜の呼吸やゲップ、冷暖房のためのエネルギー消費などが具体的な発生源で、重大な気候変動因子の一つです。
その他には、草を根こそぎ食べるヤギなどの過放牧を行えば、猛スピードで緑が失われていきます。
また、乾燥地域での無理な灌漑農業は、行えば行うほど供給されにくい土壌の養分が消費され、土地の荒廃が進みます。
さらに、過度な灌漑用水の使用は、毛細管現象によって土壌の深いところにあるミネラル分を地表に吸い上げ、地表面に塩分を析出させてしまいます(塩害)。
塩害が起きてしまった大地は不毛の地となり、緑が失われていきます。
このようにして土地の荒廃が進めば、風雨により表土層がさらわれてしまい、CO2を土壌中に固定する役割を担う「有機物(炭素を含む化合物)のサイクル」が機能しません。
その結果、大気中に温室効果ガスが蓄積されていってしまうんです。
現代農業が抱える「ジレンマ」
このように現代農業は、開発・生産を行えば行うほど、気候変動や異常気象の原因を生み出し、農業自体の存続危機につながる、というジレンマを持っています。
さらに、現代農業が置かれている経済の仕組みは、貧困格差の是正という面からも矛盾に満ちているんです。
つまり、(多くの場合)所得の低い人々がわずかな賃金で作った食糧を、わざわざエネルギーを使って輸送し食肉や燃料生産に使うことで、気候変動という脅威を大きくして食糧生産自体を危機に追い込むとともに、作った人々を貧困や飢えに追いやってまで、一部の人類が豊かな食生活を享受している構造があるんです。
もしかすると、地球と人類の双方にとって持続可能な農業生産は、現代のような大規模機械化による大量生産ではなく、自給自足的なローカルな生産形態かもしれません。
コラム
現代農業と気候変動のつながり、開発が進めば進むほど現代農業は持続可能でなくなるジレンマ、そして格差にもつながっていることを知ってましたか?
農業機械メーカーも含めた農業従事者全体で、様々な意味で「自分の首を絞めない」ために、持続可能な農業生産を研究・実践する必要がありそうです。
環境にやさしい作物による商品の開発や、メタン排出を抑えた稲作手法も見つかっています。
中国では過放牧による砂漠化が内モンゴルなどで深刻でしたが、禁牧政策の効果もあってか、砂漠化の進行が抑えられたといいます。
こうしたノウハウを世界規模で共有していけば、持続可能な未来へ一歩近づけるかもしれません。
一方、わたしたち個々人のレベルでは、少なくとも、食料調達のあり方、食に対する考え方を変える必要があります。
目の前の食材が、どこからやってきたのか。その食材を作るために、どれだけの作物と水、肥料、燃料が使われているのか。
そして、遠い地で生産されたはずの食品が、どうしてその値段で入手できるのか。
スーパーマーケットに並ぶ食材一つひとつの「生い立ち」を想像してみてください。
私たちは「今この瞬間の豊かさ」と引き換えに、気候変動から格差の構造まで、子供たちにさまざまな形のツケを残し続けています。