「気候変動」が紛争の責任逃れに使われる!?アフリカ・中央サヘル

みなさんこんにちは、コクレポです。

「気候変動が紛争の増加に関連している」っていう主張が最近注目されてます。

でも、環境のせいで紛争が悪化してる!みたいなこういう主張って、植民地支配してた国が紛争の根本にある政治的な原因から目をそらさせるために利用してたりする歴史もあって、実はけっこう危ないんです。

今回の記事で取り上げるのは、その例の1つのアフリカ中央サヘル地域です。

中央サヘル地域はなんでいま紛争が激化してるんでしょう?

ほんとに気候変動が進行したせいなんでしょうか?

中央サヘル地域の紛争の実状と、気候変動と紛争増加の関連性にまつわる議論を紹介していきます。

ブルキナファソ、メンタオ・ノード避難所にて(写真:Pablo Tosco, Oxfam / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])

サヘル地域で激化する紛争

サヘル地域は、アフリカ大陸を東西に横断しています。

西はセネガルから東はエリトリアまで続く、降雨量の少なく厳しい半乾燥の地域です。

その中でもマリ、ブルキナファソ、ニジェールといった国々が含まれる中央サヘル地域で、かつてない規模で武力紛争、人権侵害、大量の難民の発生といった状況が続いています。

2019年10月からの1年間で、この地域に暮らす6,600人以上が死亡、約740万人が食糧難になり、約150の医療施設と3,500の学校が封鎖されました。

なぜこんなに被害が大きいんでしょう?

Voice of Americaによる地図をもとに作成

紛争の経緯

今日まで続くこの紛争は、2011年にリビアのカダフィ氏による政権が崩壊したことにまでります。

サヘル地域で国境を越えて遊牧する牧畜民であるトゥアレグ人たちは、マリ政府から弾圧を受けていて、以前からリビアに保護を求めていました。

カダフィ氏はその要望に応えて彼らを保護し、軍人としての訓練を行いました。

それによりトゥアレグ人たちはカダフィ氏の下で軍人として働いていました。

でも、北アフリカや中東で発生した革命の連鎖であったアラブの春に伴い政権は崩壊し、武装したトゥアレグ人たちが自らの独立を求めてマリ北部へ帰還、アザワド解放民族運動(MNLA)を結成し、マリ北部を占領し、後に北部をアザワドとして独立宣言をしました。

さらにこの時期、リビアで使用されていた武器も混乱に乗じてマリへ流入しました。

リビアの不安定さも相まって、マリでの争いは激化しました。

2012年には軍事クーデターも発生し、マリはどんどん混乱していきます。

こうした中でマリ北部でアルカイダ系過激派武装組織も勢力を強めました。

そこで2013年、昔植民地支配を行っていたフランス、そして西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)がこの紛争に介入し、反政府勢力による支配は終わりました。

また同じ年に国連安全保障理事会により国際連合マリ多元統合安定化ミッション(MINUSMA)という平和維持活動(PKO)を行うことが採択されました。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: image-125-1024x765.png

しかし混乱した状況はその後も改善せず、武装勢力がゲリラ的に展開されていくことになります。

これに対抗するため、2014年にはフランスが、4,500人の軍人を派遣するバルハン作戦を実行し、同じ年にマリ、ブルキナファソ、ニジェール、チャド、モーリタリアから構成されるG5サヘルが結成されました。

これは西アフリカの開発と安全保障分野での協力を目指す組織で、2017年には連合軍も立ち上げられました。

紛争による治安悪化、過激派組織の進出、土地へのアクセスを巡る争いなどを背景に、マリ北部だけでなく、中部でも争いが頻発しました。

アルカイダ系武装組織は国境を越えて活動し、モーリタニアやアルジェリアでも攻撃を仕掛けていました。

そして2015年には、マリの隣国で政治的に不安定であったブルキナファソとニジェールにまでその混乱は飛び火しました

ブルキナファソでは2015年に、27年続いたコンパオレ大統領による独裁政権の崩壊やクーデターによって、政府は機能不全に陥っていました

この機会に乗じて過激派武装組織がマリから流入したんです。

複数の武装グループにより各地で暴力が多発しているにも関わらず、政府は対処に失敗し続けています。

さらに、ブルキナファソ政府は人道援助組織との連携も取れずにいます。

ニジェール北部でもブルキナファソと同様、宗教・民族を基にした武装組織の活動や、薬物貿易、人身売買などの組織犯罪が横行しています。

これらの犯罪行為に対して政府は適切な規制をかけることができていません。

ACLEDのグラフィックに日本語訳を添付

紛争激化の現状

マリ、ブルキナファソ、ニジェールの不安定な情勢によって、中央サヘル地域での過激派武装組織に関連した暴力事件の件数は2017年から2020年の間に7倍にまで増えました。

また、これらのグループに対するテロ対策という名目でこの3か国の治安部隊は、標的殺害、性暴力、拷問といった、市民に対する重大な人権侵害を行っています。

こうした不安定な状況は収束の見通しが立っておらず、PKO活動は2021年7月まで延長されることが決定しています。

気候変動は紛争の要因なのか?

このサヘル地域の紛争に、気候変動が深く関連しているのでは?という説が出てきました。

いったいどういうことでしょう?

気候変動影響論

この論は、

①気温が上昇したために、もともと乾燥している中央サヘル地域で干ばつや砂漠化が多発。

②そのため農業や牧畜に適した土地が減少。

③残った希少な土地や水資源を巡って争いが激化してしまった。

という部分に着目した論です。

実際に、2007年にパン・ギムン国連事務総長はスーダンで発生しているダルフール紛争を、水資源を巡る争いが発生していることに関連し、「初めての気候変動による紛争」と呼びました。

また、「気温が1%上昇すると内戦が4.5%増加し、2030年までに中央サヘル地域の紛争は54%増加する」と予測する研究も発表されています。

マリ北部の乾燥地帯(United Nations Photo / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])

でも、複数の研究者が、気候変動は中央サヘル地域における紛争の直接の要因とは繋がっていないと主張しています。

気候変動は直接要因ではない

ノルウェー生命科学大学のトゥール・ベンヤミンセン教授は、中央サヘル地域ではそもそも砂漠化が発生していないということを指摘しています。

砂漠化が発生していないため土地は枯れておらず、よって気候変動は、耕作に適した希少な土地を巡った争いの発生に寄与していないのではと主張しています。

1970~1980年代にかけて中央サヘル地域で深刻な干ばつが発生したものの、それ以降は同地域において緑化が観測されていて、長期的なパターンとして、全く耕作不可能な土地が増え続けるという現象は起こっていない、と述べています。

また、確かに気温は乾季には上昇しているけれど、雨季は依然として比較的涼しいままで、農業活動をする雨季には気温の上昇があまり影響していないということも説明しています。

さらにNASAは、宇宙空間から中央サヘル地域の砂漠を撮影し、写真から砂漠化は発生していないと結論づけています。

都合よく利用される気候変動影響論

ではなぜ、これほどまでに多くの研究者・研究機関が砂漠化の発生を否定しているのにも関わらず、「砂漠化が発生している」「砂漠化が紛争を引き起こす」という「神話」が生まれ、そしてその神話が広く浸透しているんでしょうか?

環境問題を利用してきた列強国

その起源は植民地支配の時代にまで遡ります。

砂漠化という環境問題が発生しているという認識は、植民地支配を行っていた列強諸国に、アフリカの自然資源を管理するという大義名分を与えることになったんです。

その背景には現地の人々の代わりに自然を管理し、自分たちの都合のいいように自然資源を利用したいという思惑がありました

植民地化が終わっても、形を変えて「砂漠化」は唱え続けられました。

国連環境計画(UNEP)といった国際機関にとっても、砂漠化は注目しやすい問題でした。

なぜなら、砂漠化対策に対して反対する勢力は生まれにくいからです。

たとえば、産業発展を妨げるような政策は反感を生みますが、農民や遊牧民が暮らす地域に木を増やすという政策に反対の声を上げる者は、政治的発言力のない農民・遊牧民の他にはあまり存在しません。

これにより国有の土地も増やすことができます。

政治的問題に関与せずに、対立の発生しにくい、対処しやすい問題として砂漠化に焦点があてられたんです。

アフリカ諸国やNGOにとっても、砂漠化を食い止めるための支援金を獲得することができます。

このように、様々なアクターにとって、「砂漠化の発生」は都合よく使用されてきました。

ブルキナファソ、バム湖周辺で農作業をする女性(Ollivier Girard, CIFOR/Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])

本当の紛争激化の原因は?

気候変動が紛争の発生に直接かかわっていないのならば、この地域における紛争の本質的な原因はなんでしょう?

先ほど書いたとおり、始まりはリビアのカダフィ政権崩壊を受けて、マリ北部で争いが激化したことです。

マリを含む中央サヘル地域にはいろんな民族が暮らしていて、遊牧する牧畜民と定住農民とによる、土地や水資源を巡る摩擦がよく発生していました。

でも、ある程度紛争にまで発展しないための仕組みはできていて、これだけでは現在のようなレベルでの紛争にまではなりませんでした。

なぜ今、争いは激化してるんでしょう?

その背景には遊牧民と政府との関係が良くないことがあります。

遊牧民を抑えつける政府

むかし西アフリカを植民地支配していたフランスは、国境を超えて遊牧するトゥアレグ人等の牧畜民を定住させ、彼らの多くは生計に必要な土地を失ってしまいました

土地の多くは、森林増加や砂漠化防止という大義名分のもと、公のものとして扱われるようになります。

政府はこうした土地への商業農業を促しました。

マリがフランスから独立した後も、マリ政府はこの姿勢を継続し、農民を優先する政策を取り、牧畜民たちをないがしろにしてきました。

遊牧民と農民の間で摩擦が生まれたら、政府機関は対立を公平におさめるべきです。

でもマリの政治家、法的機関において腐敗や汚職が頻発していて、遊牧民と農民間の摩擦を公平な視点ではなく金銭的に解決してしまっていました。

遊牧民の不満や、遊牧民・農民間の摩擦は膨れ上がり、また本格的に紛争問題に対処しようとしても貧困の蔓延や財政的な理由で、問題を根本的に解決させることができませんでした。

マリの農民と遊牧民の間にもともとあった小さな火種を政府機関が助長・悪化させたんです。

長年にわたる不平等な扱い対する不満を爆発させたトゥアレグ人(牧畜民)武装勢力が独立運動を起こしたり、混乱の中で発生した政府の機能不全の間に、過激派武装組織やジハード主義組織が介入していきました。

マリ政府がうまく機能できていない理由の背景には、フランスの存在があると言えます。

政府を都合よく操るフランス

西アフリカ諸国の独立後も、フランスはたびたびこの地域にたいして軍事介入を行っています。

その背景にはフランスに好意的で、利益をもたらすような政治秩序を、西アフリカ地域に築きたいというフランスの政治的意図がありました。

フランスにとって都合のいい政権・団体なら、たとえ独裁政権であっても存続のために助力をしてきました。

たとえば、フランスは中央サヘル地域のテロ対策を名目に、自国の資源確保のためにMNLAを支持していました

実際の目的は、マリ政府に対してフランスが有利な立場をとるためです。

MNLAの勢力が拡大すればマリ政府が弱体化し、マリはフランスに、無条件の支援を要請することになります。

そうなればマリ政府に対してフランスは優位になれます

そうするとマリの政治家たちは、市民のためではなく、フランスに都合のいい政策を打ち出し続けるようになります。

政治家としての立場を長く守ることができるからです。

このように、植民地支配を行っていた国の政治的思惑も、この紛争に深く関わっています。

ニジェール、軍事訓練の様子(USAFRICOM / Flickr [CC BY 2.0])

気候変動は人道危機を深刻化させている

ここまで見てきたように、気候変動は紛争の直接の原因ではないかもしれません。

でも、中央サヘル地域において食糧難を引き起こすなど、人道危機をより深刻にさせている要因ではあります。

なぜなら、政治的・経済的・法的体制が不安定な地域ほど、一時的な環境の変化に適応できずに混乱が発生し、またそういった状況から回復する力も弱いからです。

このことは気候アパルトヘイトの記事でも詳しく書いてるので読んでみてください。

今後気候変動が進行すれば、人道危機のさらなる悪化は免れないと言えます。

気候変動は間違いなく、現代における、解決すべき重要な課題の一つです。

結論

ここで特に気を付けるべきなのは、サヘル地域における紛争発生の責任を気候変動のみに押し付けることの危険性です。

なぜなら、そうすることで紛争の根本にある政治的要因から目をそらすことになるからです。

気候変動という外的な要因に紛争の全てを押し付けてしまうと、中央サヘル地域の権力者や、未だに支配を続けるフランスのような旧宗主国が原因である問題の解決を促せなくなります。

「気候変動」が都合のいいように紛争の理由として利用されてしまうんです。

また、現段階では砂漠化の発生が観測されていなくても、気候変動の影響は増し、雨季が劇的に短くなったり、集中的な豪雨が発生したりすることが予想されます。

そうなれば、政治的・経済的基盤が弱い国々は壊滅的なダメージを受けます。

コラム

環境問題が紛争の責任逃れに都合よく利用されてた歴史、知っていましたか?

「気候変動が紛争の増加に関わっている」っていうシンプルな論理のみを鵜呑みにしないで、背景にある複雑な政治的・歴史的問題への対処法を考えないといけません。

それと同時に、人道危機を激化させている気候変動問題にも意識を向けることが求められているんですね。

紛争の歴史的背景ってほんとにややこしくて難しいので、わかりやすい気候変動論に流れちゃいやすいのかもしれません。

気候変動はたしかに紛争を悪化させてはいるからもちろん対策が必要だけど、それだけじゃないってこと、みなさんに知ってもらえたらうれしいです。

タイトルとURLをコピーしました