みなさんこんにちは、コクレポです。
イーロン・マスクのテスラなど、電気自動車が人気になってきました。
静かに走っている電気自動車を見ると、環境によさそ~と思うかもしれません。
「(走行時)排出ゼロ」ってCMでもいってますよね。
でも、走行中の温室効果ガスの排出量だけを基準に、環境に優しいか判断してもいいでしょうか?
今回は電気自動車の環境負担について解説したいと思います。
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走行中以外の温室効果ガス
自動車が環境に与えている負担は、走行中だけ発生するわけではありません。
製造過程の排出量
自動車に含まれている鉱物資源などの原料の採掘や製錬、本体やパーツの製造、組み立て、メンテナンス、そして廃車の際の解体、リサイクル作業などの過程にもエネルギーが必要で、温室効果ガスが排出されます。
車種にもよりますが、電気自動車の製造のエネルギーとその過程で排出される温室効果ガスは、従来の内燃機関で動く自動車の倍に上ります。
しかも、バッテリーの構成は複雑なので、廃車時の解体やリサイクル作業が環境へ与える負担は大きいです。
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なので、製造の段階では、電気自動車のほうが内燃機関で動く自動車よりも排出量が多いので、マイナスからのスタートですが、走行し始めるとそれが少しずつ逆転していきます。
内燃機関で動く自動車は、ガソリンやディーゼルを燃やして走るため、多くの温室効果ガスを排出しますが、電気自動車の場合、充電された状態で走れば排出することはないからです。
発電プロセス
充電のためには電力を作り出す必要があるので、発電のプロセスによって排出量は大きく変わります。
水力・風力・太陽光などの自然エネルギーで作られた電力だと、排出量は低く抑えられますが、石炭などの化石燃料を燃やして作られる電力になると、大きく跳ね上がってしまいます。
つまり、電気自動車であっても、発電自体がクリーンじゃなければ、排出量は多くなるんです。
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では、発電方法の違いを考慮しつつ、自動車のライフサイクルの視点から、内燃機関で動く自動車と比較した場合、どんな結果になるんでしょう?
これは研究の前提によって、結果は変わってきます。
たとえば、廃車までの走行距離を長く設定すればするほど、電気自動車の排出量は、内燃機関で動く自動車と比べて少なくなります。
発電の化石燃料の割合が高いポーランドですら、廃車までの走行距離を20万キロと設定して計算すれば、ディーゼル車と比べて電気自動車の二酸化炭素の排出量が25%少ないです。
なので、電気自動車が温室効果ガスを本格的に減らしていくための改善策となるには、社会全体の発電において再生可能エネルギーを大幅に増やしつつ、一台一台の電気自動車をなるべく長持ちさせることが肝心なんです。
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鉱物資源の環境破壊
しかし、電気自動車による環境への負担は、温室効果ガスの排出だけではありません。
バッテリーの原料レアメタル
バッテリーの原料となるレアメタル等の鉱物資源の採掘や製錬は、土、空気、水の汚染やその他の環境破壊を引き起こします。
特に、バッテリーや充電施設に必要なコバルト、ニッケル、リチウム、銅が問題視されています。
電気自動車1台当たりに必要な銅は90キロ(内燃機関で動く自動車の場合は20キロ)で、コバルトは約8キロです。
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このような鉱物資源の採掘と製錬は、必然的にある程度の環境破壊を伴いますが、採掘・製錬が行われる国によっても、その破壊の度合いは大きく変わります。
コバルト
たとえば、世界のコバルトの54%がコンゴ民主共和国(主にカタンガ州にある複数の鉱山)から採掘されていて、同じ地域で銅も大量に採れます。
鉱業において環境を保護するための規制は、ほぼ皆無です。
大幅な森林伐採が行われ、深刻な川・空気汚染がたびたび報告されています。
ウラン
しかも、同じ鉱山にはウランも含まれていて、放射能による汚染も問題視されています。
鉱山の周辺や、その近くにあるコンゴ民主共和国で人口が2番目に多いルブンバシ市では、呼吸器系疾患や出生異常等の数が跳ね上がっています。
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ニッケル
ニッケルの採掘と製錬においても、大規模な環境破壊が発生しています。
例えば、2016年にロシアのノリリスクで起きた鉱山の事故で、大量の有害物質がダムから流れ出て、川が真っ赤に染まりました。
また、世界一のニッケル生産量を誇るフィリピンでは、2017年に環境破壊と現地社会への影響を理由に、政府がその生産量の50%(世界の10%)が採掘されている計16の鉱山の閉鎖を命じました。
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リチウム
チリ、アルゼンチン、ボリビアなど、主に南米で採れるリチウムの採掘・製錬における環境破壊は、コバルトやニッケルに比べてまだ少ないとされていますが、決して環境上の問題がないわけではありません。
製錬には大量の水が必要で、汚染が発生することもあります。
また、火災事故も発生しやすいです。
他の鉱物資源と同じように需要が増えれば増えるほど、環境や現地住民への負担も懸念されています。
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劣悪な労働環境
鉱物自体は現地で非常に安く取引されていて、労働環境もひどいです。
鉱山ではマスクなどの保護具なしで働く労働者も多く、さらに児童労働も大きな問題となっています。
電気自動車の需要増加に伴い、レアメタルの採掘量は急増していて、環境と人間へ与えるダメージは、さらに増加し続ける可能性があります。
改善策へ
バッテリーの充電が、化石燃料で作られた電力で行われると、効果は小さいです。
たとえ電力を再生可能なものに切り替えることができたとしても、バッテリーに使用されるレアメタル等の鉱物資源は、再生可能ではありません。
鉱物資源を土から掘り起こし電気自動車の一部にしていく過程で、環境や人間社会に与えるダメージは大きいです。
それでは今後どのようにしていけばいいんでしょう?
技術の向上
改善策のひとつは技術の向上です。
電気自動車の本体やバッテリーをより軽くすれば燃費が上がります。
また、鉱物資源の採掘や製錬の負担を減らすためには、バッテリーに含まれる鉱物資源をうまく取り出し、リサイクルをする技術の進歩が必要です。
リサイクル技術を発展させ、新たな資源を掘り起こすよりコストを下げることが必要です。
もっとも、バッテリーは電気自動車だけの問題ではありません。
パソコン、スマホ、カメラなどの電化製品に使われているバッテリーにも同じような鉱物資源が含まれていて、それらの資源のリサイクルも大切です。
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しかし、電気自動車における技術の進歩は、あくまでも改善策の一部です。
そもそも、自動車の利用自体を減らす必要があると言われています。
エネルギーのクリーン化
また電気自動車のメリットは、エネルギー自体がクリーンかどうかで大きく変わります。
再生可能なエネルギーにも鉱物資源が必要であるなどの別の問題もありますが、世界全体でクリーンな発電を進める必要があります。
鉱業の改善
また、コバルト、ニッケル、銅などの鉱物資源が、どこで、どのように採掘・製錬されているのかも探り、その改善も大切です。
コラム
みなさん電気自動車=環境にいい!って思ってませんでしたか?
そもそもその電力の作り方がクリーンかそうじゃないかによって大きく変わるってことは見落としがちなんじゃないでしょうか?
ほとんどの電力が再生可能エネルギーと原子力から供給されているスウェーデンやフランスでは、電気自動車からの排出量(平均寿命で考えた時)は、ガソリン車よりも最大70%低いみたいです。
iPhoneが新しくなるたびに買い替えたい気持ちはとってもわかるんですが、その度に新しいバッテリーが使われてることも知ってほしいなと思います。
また、使わなくなったスマホやPCはできるだけリサイクル回収に出すことも、私たちにできることかな、と思います。
バッテリーの鉱物資源問題は、スマホの裏側:世界最悪の紛争にも書いているとおり、環境問題だけではなく、賄賂や紛争、貧困の問題とも絡んでいるのでぜひ読んでみてください。