みなさんこんにちは、コクレポです。
FIFAワールドカップは世界中で大盛り上がりですね。
今回の開催国となるカタールはアラビア湾に突き出た半島に位置する小さな国なんですが、大会の盛り上がりの一方で、その裏には多くの問題が潜んでいます。
汚職問題や労働環境についての問題、環境への影響、外交問題など、この機会に是非国際問題についても考えてみてください。
開催地の決定
今回のW杯についてまず問題となったのは、開催地決定に関する不正疑惑です。
カタールは猛暑のため、疑問の声もありましたが、2010年12月にFIFAの執行委員会での投票によって決められました。
2011年5月、FIFAの幹部に対してカタール政府から賄賂が支払われていたのではないかという不正疑惑が浮上し、FIFA内で調査が行われ、疑わしい事実がいくつか明らかになりました。
その1つが、投票後の2011年、開催地決定の投票に参加したFIFA関係者の子どもの口座に200万米ドルもの額が入金されていたことです。
支払いを行ったと思われるサンドロ・ロセイ氏はバルセロナ・フットボールクラブの会長で、開催地がカタールに決定した後、クラブはカタール政府が出資するカタール財団と新たに契約を結んでいます。またそれとは別に、ビジネス上カタールとつながりを持つフランスの二コラ・サルコジ元大統領は、投票の1カ月前に、開催地決定に影響力を持つ欧州サッカー連盟会長であったミシェル・プラティニ氏を食事会に招いていました。
このようにW杯の開催地がカタールになることで得をする立場にある人たちが、金銭のやり取りや食事会を通してなんらかの影響を及ぼしていた可能性が高いです。
その後も、2018年と2022年のW杯開催地決定の投票に関わった22人のうち16人もの人が、汚職等の疑いを理由として調査されたり告発されたりしています。
開催準備をする労働者
次はW杯で使用するスタジアムなどの建設現場での劣悪な労働環境についてです。
カタールは人口が約280万人で、その大部分が外国人労働者で構成されています。
具体的には200万人以上の外国人労働者が働いていて、国全体の労働者の約95%を占めます。
今回のW杯に向けた8つのスタジアムやホテルなどの施設建設のためにも、インド、ネパール、バングラディシュ、パキスタンをはじめとする国外から来た何万人もの外国人労働者が働いているのが現状です。
そのようななかで、W杯開催に向けて働く外国人労働者が虐待と言えるような状況に置かれていることが明らかになって、大きな問題となっています。
猛暑のなかで多くの人が低賃金で長時間労働を強いられ、ミスをした際に罰金を取られたり、食料と水を制限されたりする場合もあります。
また、過労などで死亡している外国人労働者が多いという指摘があります。
イギリスのガーディアン紙の調査では、2010年から2020年までにカタールで少なくとも6,500人の外国人労働者が死亡しているとされました。
この数字は一部の国のデータが含まれていないため、実際にはもっと多くの命が失われていることになります。
W杯主催者は、2014年から2021年の間にスタジアム建設の現場で亡くなった人は40人で、「業務に関連する」ものはそのうち3人のみであったといっていますが、国際労働機関(ILO)は、このデータは熱射病の一般的な症例である心臓発作や呼吸不全による死を業務上の死亡とカウントしていないため、過小評価だと主張しています。
外国人労働者はなぜこのような過酷な状況から抜け出すことができないんでしょうか?
1つの大きな要因となっているのが、中東地域で幅広くみられる「カファーラ制度」です。
「カファーラ制度」とは外国人労働者を雇用主に法的に拘束するというスポンサーシップに基づく雇用制度です。
この制度の下では、時にパスポートが取り上げられるなど、労働者は雇用主の許可無しに転職や出国ができなくなるので、労働者への虐待を助長していると長い間問題となっていました。
2020年には改革によって労働者は事実上雇用主の許可を得ることなく転職できるようになり、カタールでは「カファーラ制度」はほぼ廃止されることとなりました。
でも、実際には現在も労働者への虐待が根強く残っているとされています。
さらに、カタール政府が賃金の未払いについて抗議した外国人労働者を国外退去させたことも問題となりました。
2022年8月、60人以上の労働者が建設会社の事務所前に集結しました。
中には7カ月間賃金が支払われていないという人もいましたが、この抗議は治安維持法に違反するということで拘束されたり強制送還されたりする人も見られました。
不当な扱いを受けた外国人労働者に対し、今後適切な対応は取られるのでしょうか?
カーボンニュートラルの実現?
続いて、環境についての問題です。
カタール側は今回のW杯について、史上初のカーボンニュートラルな大会にすると言っていました。
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量=吸収量にして、実質的に差し引きゼロとなっている状況のことです。
そのためにカタールでは、競技場周辺の照明や冷却システムを太陽光電池で動かす、スタジアム建設にリサイクル素材を使う、施設周辺に大きな公園を新設して水を再利用できるような灌漑システムを使用するなどの取り組みがなされています。
また自動車の使用を減らすために、バスや地下鉄など公共交通機関の整備を進めたり電気バスを使用したりと環境へ配慮したシステムづくりが行われています。
2020年の報告書では、二酸化炭素の吸収のために16,000もの樹木と120万平方メートルもの芝が植えられたことや、建設されたスタジアムはFIFAが要求する認証レベルをはるかに超えていることなどが発表されています。
順調じゃない?と思えますが、現時点で今回の大会はカーボンニュートラルには程遠いとして批判の声が上がっています。
非営利団体カーボン・マーケット・ウォッチの報告書によれば、新しいスタジアムの建設によって排出される炭素排出量は、カタールの報告の8倍にも及ぶと予想されています。
また2022年5月に、世界各国から試合を見に来る人々のために、カタール航空などの航空会社が毎日160便以上の臨時運行をすると発表しました。
飛行機が環境へかける負担はとても大きいため、当初のカーボンニュートラルに向けた計画が崩れてしまうのではと懸念されています。
さらに、カタールは普段から国全体として二酸化炭素の排出量が非常に多いことで知られており、2020年のデータでは、1人当たりの二酸化炭素排出量は約37トンで世界1位です。
また、「アース・オーバーシュート・デー」という指標があります。
この指標は、国際的な研究機関のグローバル・フットプリント・ネットワークが、
「その年に地球の生態系が再生できる資源の量」>「人間の需要」になる日付を計算したものです。
つまり、その年に使える資源を人間が使い切ったとされる日のことです。
これは国別にも計算されていて、世界中の人々がその国の人々と同じように生活した場合、アース・オーバーシュート・デーが何日になるかを示しています。
すでに発表されている2022年の分析では、世界全体では7月28日であったのに対し、カタールの日付は世界で最も早く2月10日でした。
W杯の準備や運営においてカーボンニュートラルが目指されるのは大切なことですが、それだけではなく普段からカタールが環境に及ぼしている影響についても注意を払わなければいけないのでは?
外交問題とW杯
最後にカタール周辺地域の情勢について取り上げます。
2017年にサウジ、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、エジプトの4か国が、カタールがテロを支援していたと非難しカタールとの断交を宣言する事態が発生しました。
カタールがサウジアラビアと対立するイランと友好関係にあること、ムスリム同胞団に支援をしていたことが理由とされています。
テロの支援についてカタールは否定しています。
断交の一環で、唯一の陸上国境であるサウジアラビアとの国境は閉鎖され、航空機も空域への侵入を許されず、カタール国旗を掲げる船舶やカタールに物を運ぶ船舶は多くの港に停泊することができなくなりました。
このように貿易を大きく制限されたカタールは、イランやトルコとの貿易ルートを強化せざるを得なくなりました。
解除の条件として、イランとの外交関係の縮小、カタール内のトルコ軍基地の閉鎖、カタールの主要な報道機関であるアルジャジーラの閉鎖などが求められましたが、カタールは応じませんでした。
その後、クウェートやアメリカの仲介もあって、2021年1月の湾岸協力会議首脳会議において「ウラー宣言」が発表され、断交は終結しました。
一時はW杯の開催も危ぶまれる状況で、UAEの安全保障当局担当者が、カタールがW杯の開催をあきらめればカタール危機は終結すると述べるという出来事もありました。
FIFA 会長は、カタール危機が大会の開催を脅かすとは考えていないとしましたが、UAEが出場するW杯予選の審判を当初予定していたカタール人から変更するなど一時対策を取りました。
コラム
W杯は本当に盛り上がりますよね。私も日本ドイツ戦を大興奮で見てました。
でも、巨大な支出・収入を伴う国際的な大イベントである分、ここまで見てきたような様々な問題を引き起こしてしまっているのも事実です。
多くの人の命や人権に影響を与えている以上、こういうタイミングに、深刻な問題にも目を向けてほしいなと思います!