前回記事のように、社会的影響力が大きかったはずのパンドラ文書は、なぜあまり報道されなかったんでしょうか?
報道されない原因
タックスヘイブン問題
まず、これはパンドラ文書・パナマ文書に共通して言えることですが、そもそもタックスヘイブン問題が報道されにくいということが挙げられます。
なぜなら、タックスヘイブンのような、長年続く仕組み・システムに関するトピックは、単発的に発生した事件等よりも、報道として注目を集めにくいという特徴があるからです。
また、情報の秘匿性も、取材のしにくさを助長します。
パナマ文書との違い
記載の知名度
まず、文書に記載のあった政治家たちの知名度の違いです。
パナマ文書では、中国の習近平国家主席の姉の夫や、ロシアのプーチン大統領の親友、そして当時現職のイギリスのデーヴィッド・キャメロン首相といった、普段国際政治の舞台でよく注目が集まる政治家たちの名が記載されました。
しかしながらパンドラ文書では、ロシアプーチン氏周辺人物の名前は挙がりましたが、他の国々の首脳陣は、普段の報道ではあまり取り上げられない国の人々ばかりです。
普段から、報道対象として注目されている国か否かが、今回の違いにも影響を与えたと考えられます。
世間のリアクション
他に考えられる理由は、パナマ文書の際にはメディア映えするような派生事件が多数発生し、それらに対する世間のリアクションも大きかったこともあります。
たとえばアイスランドのケースを見てみると、パナマ文書に名前が記載されたグンロイグソン元首相は、タックスヘイブン問題に関しインタビューを受けた際、途中でカメラに背を向けて逃げるように立ち去る場面が大きく報道されています。
こうした首相の姿も含め、アイスランドのような高度に民主的な国では、首相に裏切られたと感じた民衆の怒りが大きく、議会前を埋め尽くすほどの大規模なデモも発生しており、またそうしたデモの様子もメディアによって大きく報道されています。
他にも、パナマ文書報道開始の数日後にアメリカのバラク・オバマ元大統領が会見を開き、タックスヘイブン問題への対処を呼び掛けたことも、注目を集める要因となった出来事だという指摘があります。
一方でパンドラ文書では、こうした社会からのリアクションがあまり見られませんでした。
たとえば、政府関係者としてパンドラ文書に名前が挙がったチェコのバビシュ首相に関して、パンドラ文書の影響を受けて首相率いる与党が下院選で敗北にはなりましたが、大きなデモ等は発生してはいません。
また、王国であるヨルダンでは、政府が直接的・間接的に国内メディアの多くを保有しており、パンドラ文書に関する報道がシャットアウトされていました。
よって、そもそも民衆がパンドラ文書のような情報にアクセスする術を持たず、それ故にヨルダン国内でパンドラ文書に対するリアクションも発生しません。
パナマ文書の際は文書それ自体ではなく、反響に対する記事が多く書かれたために報道量が多かったとい指摘もあります。
またオバマ氏の記者会見のように、アメリカ大統領の動きがあるかないかも、反響の大きさに影響を与えています。
孫正義が報道されないワケ
では、ソフトバンクの孫正義氏など日本の社会にも大きな影響力のある人物の名前が記載されたのにもかかわらず、パンドラ文書が大きく報道されなかったのはなぜでしょう?
日本の報道は、文書に名前が載った以上の情報にアクセスできなければ、「税逃れをしていないという先方(文書に名前が載った人物)の抗弁を崩すことができない」ため、文書に名前があるだけでは大きく報道することはできないようです。
以前は日本の法律の下で、所得額の大きい個人の納税額が公表されていましたが、十数年前に公表制度がなくなったため個人の納税額を知ることはできなくなりました。
そのため、税を払っているか払っていないかを確認することができない状況が発生しています。
コラム
パンドラ文書は、 タックスヘイブンを使って、権力者や大富豪が富を隠し、税金や規制を逃れているおいう莫大な問題を明るみにしました。
いかに富裕層が制度の穴をついて利益を得てきていたかがわかる、数少ない機会の1つでした。
そしてこのことは、世界中の多くのジャーナリストたちのおかげで可能となりました。
しかし、これほど重要な問題を、どれだけの人が把握することができているんでしょうか?
タックスヘイブンを、日本国内のみの視点から捉えるのではなく、日本を含む世界にとっての大きな課題として問題提起していくことが、報道機関に求められる大きな役割の1つではないでしょうか。