ハゲタカファンド:貧困国を苦しめる先進国のハゲタカ企業!

みなさんこんにちは、コクレポです。

「ハゲタカ」といったらドラマを思い浮かぶ人も多いんじゃないでしょうか?

「ハゲタカ」って私利私欲のために弱者を食いものにする、みたいな悪者としてよく使われますよね。

今回はそんな不名誉な「ハゲタカファンド」が世界にどんな影響を与えてるのか、解説したいと思います。

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ハゲタカ映画

借金が返せなくなったら

個人でも、企業でも、国家でも、借りたお金を返せないことがありますよね。

借りたお金を返せないことを債務不履行といいます。

債務不履行になったとき、それが個人もしくは企業であれば、「破綻」という選択を取ることができます。

破綻はある意味救済制度で、誰もが公正な手続きに則って破産手続きを行うことができます。

最大限に資産を清算して、それぞれの債権者に平等に返済を行えば、それ以上の負債については追求されることはありません。

返済能力を超えた債務は、帳消しになるってことです。

もちろん企業が破綻した場合は、その組織再生はできなくなりますが、個人が返済のために、飢えるようなことや死に追いやられるようなことは起こらないんです。

一方で、ある国家が債務不履行になったとしても、そこに「破綻」の選択肢はありません。

企業のように国家へ「破綻」を適用すると、国の存在を消すことになってしまい、不可能だからです。

国家が債務不履行になることをデフォルトと呼びます。

デフォルト発生時の国際的な法の枠組みは制定されていません。

国家の上に立って権力を行使する大きな存在がいないため、デフォルト後の手続きはとてもあいまいです。

将来また借り入れをするためには社会的な信用が必要なので、デフォルトになった国家自身も、借金を帳消しにすることは望んでいないという現状もあります。

そのため国家自らが主導となって、債務の削減や条件の緩和に取り組むんですが、これはとても複雑で、交渉は長い時間がかかります。

経済危機に陥ったギリシャで銀行を守る警察(写真:Wikipedia [CC BY-SA 2.0] )

ハゲタカファンドの仕組みと問題点

では、ここまでの背景を知った上で、ハゲタカファンドがどんな仕組みになっているのか見てみましょう。

本来的な意味での「ハゲタカファンド(vulture fund)」は以下のように定義されてます。

利益の回収を目的に、債務不履行になった債権や経営危機になった機関が発行する債権を、購入・譲渡・その他の取引によって手に入れる民間商業団体

むずかしいですね。

この記事では、国家債権のハゲタカファンドを説明します。

ハゲワシ(写真:Ian White/Flickr [CC BY-NC-SA 2.0] )

ハゲタカファンドの仕組み

国家債権のハゲタカファンドは貧困国を主なターゲットにします。

彼らのやり方はこうです。

まずデフォルトした貧困国の国家債券を、流通市場で実価値よりもはるかに低い価格で手に入れます。

一度手に入れたら最後、訴訟・資産の差し押さえ・政治的圧力など、想定しうるすべての方法を行使して、利子・罰金・かかった弁護士費用とともに負債の全額返済を追求していきます。

これだけ見ると、「違法に借金を取り立てているわけではない」「資本主義社会として当たり前のことでは」と思うかもしれません。

ハゲタカファンドのどこが問題なんでしょう?

ハゲタカファンドの問題点

ハゲタカファンドのターゲット国のほとんどは、重債務貧困国(HIPCs)と呼ばれる国です。

HIPCsは貧困度と債務の深刻度に関する一定の基準に従って、世界銀行と国際通貨基金(IMF)が、40カ国ほどを認定しています(そのうち30か国以上がアフリカのサブサハラに集中)。

HIPCsは貧困の緩和や発展のために資金が必要不可欠なので、そういった国々の債務削減や条件緩和を受け入れることが多いです。

そもそも、HIPCsに代表される重債務国が背負う借金は、債権者側である先進国のせいであることもあるんです。

冷戦下で、戦略的・政治的な理由で、アフリカやラテンアメリカの独裁政権を支えるために多額な資金を貸していたのは、先進国たちです。

オイルショック時やその後では、オイルマネーで潤った先進国の銀行たちが、その返済能力を考えず、儲けたいでけで途上国へ多額の資金を貸し出しました

つまり、債務を背負う側だけではなく、貸した側にも責任がある場合が多いんです。

また、貧困国の抱える債務の多くは、かなり高い利子が課せられていて(国家への貸出における利子などは世界的に明確な取り決めがなく、民間と比べると高く課せられてきました)、すでに元本を払い終えているのに、積み重なった利子だけを支払い続けていることもあります。

なので、債務の再編または債務帳消しの交渉を、債権者全体で受け入れる流れはある意味で当たり前ともいえます。

でも、ハゲタカファンドはこの流れに真っ向から逆らって、貧しい国からお金を搾り取ろうとします。

世界各国の通貨(写真:Images Money/Flickr[CC BY 2.0] )

デフォルトに陥ったHIPCsの国家債券は、借金を回収するのが難しく、債務再編交渉に突入すると長い時間かかることが多いです。

しかも、借金を回収することが現実的に難しい場合もあります。

なので、短期的な利益回収を求めていたり、債務が焦げ付くことを恐れる債権者の中には、デフォルトが発生すると、借金の回収を諦めたり、一部でも元金を回収しようと、早いうちにその国家債券を手放そうとする人も多いです。

ここに目をつけるのがハゲタカファンドです。

彼らはこのタイミングを狙って、実価値よりもはるかに低価格で債券を手にできます。

国家債券を手にしたハゲタカファンドは、債務再編計画を拒否し、むしろ満額の債務返済へ強い請求を行い始めます。

債務の再編計画に反対して、穏便な再建を滞らせることをホールドアウトと呼びます。

この世界的な重債務貧困国救済の流れを無視することは大きな問題です。

事例:ハゲタカファンドと戦ったアルゼンチン

アルゼンチンはよくデフォルトになっていますよね。

2001年にデフォルトになった時のアルゼンチンの例を出します。

当時アルゼンチンは810億米ドルの莫大な債務を抱えていて、この債務再編は国家存続の上で急務でした。

債権者との交渉は難航したものの、約10年の年月を経て、2010年にアルゼンチンは92%以上の債権者たちと債務削減の合意に至りました。

債務の再編まであと一歩。

アルゼンチンに差した救済の光でしがが、米大手ヘッジファンドであるエリオット・マネジメント傘下のNMLキャピタルというハゲタカファンドはこれに応じませんでした。

彼らは債務再編の合意へ参加することなく、アメリカの裁判所においてアルゼンチンへの債務支払請求訴訟を起こしました。

焦げ付きを恐れて市場に安価で流出したアルゼンチンの国家債券を買い込んで、救済の動きを無視して、儲けようとしたんです。

結果、裁判ではNML側の主張が認められ、アルゼンチンには巨額の借金支払い命令が下されました。

債権者たちで進めていた努力は完全に無視されただけでなく、彼らを差し置いてNMLへの返済を優先しなければいけなくなったんです。

アルゼンチンを襲ったハゲタカファンドへの抗議運動(写真:Jubilee Debt Campaign/Flickr[CC BY-NC 2.0] )

そもそも債権契約においては平等原則が世界の常識で、NMLだけを優遇した借金返済を行うことは、この常識から外れています。

NMLとの間に生じた約10年もの司法紛争によってアルゼンチンは疲弊し、結局、借金の支払いを受け入れざるを得ませんでした。

ハゲタカファンドが及ぼす悪影響

アルゼンチンだけではありません。

ザンビアやコンゴ民主共和国を始めとする多くの貧困国がハゲタカファンドに苦しめられてきました。

1976年から2010年の約35年間で、アメリカとイギリスだけで、デフォルトになった26カ国に対して約120件の返済請求訴訟が発生しています。

しかも、訴訟は72%という高い成功率です。

これまでハゲタカファンドに最も襲われた地域であるアフリカでは、デフォルト国に対して年間で平均8件の訴訟が提起されていて、国によってはその返済請求総額がGDPの12〜13%を構成しています。

同時にアフリカは訴訟の勝率が低く、その支払い総額は7億米ドルを上回ります。

一度訴訟を起こされると莫大な費用と時間が必要となり、アルゼンチンのように支払い命令を受け入れざるを得なくなってしまうんです。

借金の支払いに歳入が充てられるため、病院や学校などの公共施策に充てられるべき資金はなくなり、国は一向に豊かになりません。

短期的な金策に苦しむ国は、公共事業を民間へ売却せざるをえず、国民の生活レベルが危機にさらされることだってあります。

ハゲタカファンドを中心にした負の循環が存在しているんです。

また、支払い判決が下されると、債務削減に合意した債権者への返済は後回しとなって、ハゲタカファンドのようにそれを拒否した債権者への支払いが優先されます。

貸した側としての責任を全うしようと、債務再編計画を受け入れた人間が損を被る不公平な構図になってるんです。

アルゼンチンを襲ったハゲタカファンドへの抗議運動(写真:Jubilee Debt Campaign/Flickr[CC BY-NC 2.0] )

ハゲタカファンドを守る先進国

貧困国から富を搾り取るハゲタカファンドの問題点を見てきましたが、彼らに対抗する動きはないんでしょうか?

債務危機に苦しめられていたアルゼンチンとギリシャの活動によって、2015年の国連総会ではハゲタカファンドへの対抗として、「デフォルトに陥った国と債権者との間における紛争を解決するための一連の原則」を設定する提案がされました。

投票数は141票。賛成136票に対して、反対6票。棄権は41票でした。

アメリカ、日本、ドイツ、イギリスなどが反対したんです。

ヨーロッパ連合(EU)は、ギリシャによる強い請願があったのにもかかわらず、国家債務問題に関するその他全ての議題も含めて、棄権の立場を突き通しました。

ハゲタカファンドの問題が解決しない背景には、ハゲタカファンドへの対抗活動をブロックする先進国の反対が存在しています。

ハゲタカファンドの動きを阻止しようと国内法を制定する国もあるなか、いわゆる国際社会において大きな発言力を持つ国々が、問題の解決へ真剣に取り組んでいないんです。

先進国は、「債務再編についてのルール制定が金融市場に不確実性をもたらす」と主張しますが、それは自国の利害にとらわれず、物事を客観的に考えた結果なんでしょうか?

国連総会議場(写真:Linh Do/Flickr[CC BY 2.0] )

ハゲタカファンド撲滅に向けて

貧困国をターゲットに、借金に苦しむ彼らを貪るハゲタカファンド。

彼らへの借金返済は、国民のために充てられるべきお金が借金の返済に充てられるということです。

医療現場に資金が充てられず、水や電気といった生活基盤への投資ができません。

ハゲタカファンドは経済的な問題だけではなく、人の命にかかわる問題なんです。

ワクチンを摂取するエチオピアの子供(写真:UNICEF Ethiopia/Flickr[CC BY-NC-ND 2.0] )

国連総会で過半数の国が賛同したように、国家がデフォルトになった際の枠組みを国際的に制定する必要があります。

債権者における平等原則をしっかりと機能させ、一律にホールドアウトを許さないようにするべきかもしれません。

国家のデフォルトを対処する裁判所のような機関が存在しないことも問題です。

いずれにせよ、先進国か発展途上国かを問わず、世界全体で問題の解決に取り組むことが求められています。

コラム

ハゲタカファンドの存在知ってましたか?

借金を返すのは当たり前じゃんって思うと思うんですけど、その背景を知ることってすごく大切です。

冷戦やオイルショックなど、歴史のいくつかのタイミングで、自分たちの都合のためだけに、アフリカやラテンアメリカの独裁政権に無責任にお金を貸したのは誰なんでしょうか?

背景を知ると、デフォルトになった貧困国が提案する債務再編は、救済のためではなく、むしろ果たすべき責任を取るという点で、先進国側が進んで取り組まないといけないことでは?という考えも出てくるんじゃないでしょうか?

借金の問題って軽く見られるかもしれませんが、このせいで医療にお金を充てられず人の命がなくなってしまうこと、そしてさらなる貧困の負のスパイラルを生んでしまうことも、知ってほしいなと思います。

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