みなさんこんにちは、コクレポです。
今年はバナナの価格が高騰し、スーパーで嘆く日本市民の声が多く取り上げられました。
でも、農家を取り巻くバナナ業界の実態はあまり知られていないのでは?
今回は、バナナ生産が盛んなフィリピンミンダナオ島に焦点を当てて、バナナ業界が抱える問題をみてみます。
ミンダナオ島におけるバナナ業界の実情
歴史的に、バナナは約1万年前からニューギニア島を起点として、フィリピンや熱帯地方に伝播したという見方があります。
19世紀末に世界のバナナ市場は急激に拡大しました。
その背景には、丈夫な品種のバナナが開発されたことや、単価の低さ、安全性やカロリーの高さ、健康食としての位置づけなどが挙げられます。
バナナ需要の高まりとともに、19世紀末から中南米で大規模なプランテーションを展開した、アメリカ拠点のユナイテッド・フルーツ・カンパニーなど、市場を独占して巨大な権益を獲得する企業も現れました。
1898年の米西戦争以降、フィリピンはアメリカの統治下に置かれ、多国籍企業から投資を受けます。
未開発の「開拓地」と見なされていたミンダナオ島でも、バナナやパイナップルのプランテーションが設立されました。
作られた商品はアメリカで関税を免除され、輸出志向型経済が発展していきます。
プランテーション設立時に土地を奪われた住民との争いは絶えず、バナナ取引で最も利益を享受したのはプランテーションの所有者(主にアメリカの企業)でした。
第二次大戦後、フィリピンは独立を果たし、工業化、サービス化に舵を切りましたが、紛争による政治的不安、投資不足などの理由により、ミンダナオ島の主要な産業は変わらず農業でした。
引き続き栽培されていたバナナは、1950年代頃から品種の変化が生じます。
というのも、それまで取引の対象となっていたグロスミシェル種は、「パナマ病」というバナナが枯れる病気が中南米で発見されたんです。
パナマ病にかからない新たなキャベンディッシュ種は、丈夫で輸出向きだったこともあり、1960年代から主に日本市場向けに栽培が始まり、生産量は年々増加していきます。
現在バナナは、フィリピンの主要な果物の輸出品となっていて、国全体でミンダナオ島が生産量の80%以上を占めています。
輸出先としては、日本(45%)や中国(27%)、韓国(12%)などアジア諸国が大半です。
バナナ業界が抱える問題:恒常的な問題
フィリピンのバナナ業界は様々な問題を抱えて、窮地に陥っています。
たとえば、日本の伊藤忠商事は、ミンダナオ島でバナナを生産する会社を出資して設立し、輸出業者や輸入業者、さらには日本国内で販売する小売業者までの流通経路を確保しています。
このサプライチェーンにおいて、端緒となるバナナ農家が十分に受益できていないこと、及び不透明かつ不公平な労働条件制度が大きな問題になっています。
農家の75%と推定される小規模農家は、農家に不利な形で企業と契約が結ばれてきました。
その最大の原因は、農家と外資系企業の力関係にあります。
農家は売り先が限られていて、大規模な資本とネットワークでサプライチェーンを掌握してきた外資系企業が取引において圧倒的に優位な立場です。
そのため、農家は企業が一方的に設定した価格でバナナを売ることになり、売上総利益のわずか2.4%しか利益を享受できていないというデータがあります。
また、バナナのプランテーションで働く労働者の労働条件も劣悪です。
労働者は、長時間労働や低賃金、人権侵害などの問題に直面しています。
プランテーションで行われた現地調査によれば、ある労働者は18時間働いたにもかかわらず、深夜手当や残業代が付帯されず1日7米ドルしか支払われなかったといいます。
休憩時間も十分に設けられず、手洗いで離れた時間は給料から天引きされることもあるため、労働者は我慢しながら働き、尿路感染症などの病気にかかることもあります。
貧困で苦しむ現地の住民は働き口が限られていて、その日暮らしを求めてプランテーションで働いていると考えられますが、十分な対価を受けているとは言い難いです。
次に見るのは、農家や農園付近で暮らす住民の健康被害や環境汚染に関する問題です。
害虫の被害を防ぐため、バナナ生産時には大量の農薬が空中散布されます。
使われる農薬や殺虫剤は毒性が高く、住民への健康被害が多数報告されています。
「毒の雨」と呼ばれる農薬の散布により、農家や近隣住民の農薬中毒や失明、皮膚障害などの被害に加え、妊娠中は胎児の脳機能に障害をもたらす可能性も示唆されています。
また 農薬で汚染された飲料水は安全でないため、住民は他の地域から水を購入する必要があります。
水の汚染だけでなく、農薬の過剰な分布は土壌や大気汚染などの環境問題とも関連していて、二次災害として森林破壊や生物多様性の危機につながると分析されています。
この問題に加え、ミンダナオ島では武力紛争が続いてきたことから、農園が軍事作戦に利用されてきました。
ある調査によれば、バナナの生産量が多い州では、生産量の増加に伴い、武力衝突の発生も増加したことがわかりました。
反政府勢力が農園を恐喝し、資金を調達していたのではないかと見られています。
他国の事例
フィリピンのバナナ業界が抱える問題は、世界の他の地域と様々な共通点があります。
ここではフィリピンと同様に、バナナの輸出が盛んな中南米のバナナ業界と比較してみます。
例えばエクアドルでは、今も農家に不利な取引制度になっています。
取引価格は企業に設定され、生産費用が売上より高くつく事例もあります。
また プランテーションで働く労働者は、児童労働や長時間労働を経験することは珍しくなく、十分な賃金を得られていないとの調査結果が出ています。
悪質な児童労働が蔓延していて、多くの児童労働者は10~11才から1日平均12時間働き、法定賃金の60%に相当する額しか受け取っていません。
そして解雇やブラックリスト入りの可能性があるため、労働組合の参加率はわずか1%で、労働者の権利は十分に保護されていないといいます。
健康被害に関しても、ミンダナオ島で見た空中散布による健康問題が明らかになっています。
解決に向けた取り組み
フィリピンでバナナ業界の問題を解決するためにどんな取り組みがあるんでしょう?
フィリピンの農業省が出した資料によれば、多種多様な問題を解決するため、様々なアクターが活動を行っています。
農業省が、生産性の向上を目的として、肥料、農薬、農機具への助成金制度を整備したり、保険会社が小規模農家への「収穫保険」を計画したりしています。
また外交的な手段として、大使が輸出先の国民や小売団体に直接働きかけることも、消費者の間でバナナ業界における問題を考えるきっかけにつながります。
事実、日本では、複数の報道機関が大使の要請について取り上げ、国会の質疑応答でも触れられました。
他にもフィリピンの省庁レベルで、天候不順を想定した開発プログラムや市場確保のために関税見直し、市場拡大に向けた動きが見られます。
国際的にも、フェアトレードのバナナを普及するためのビジネスフォーラムも開催され、実際に認証を受けたバナナの販売も始まっています。
利益が生産者に公平に配分されるためには、価格設定で影響力を持つ商社や小売業者を巻き込むことが必要であるため、多くの立場からなる会議や組織レベルで問題解決にあたることが必要です。
また、草の根レベルでも農協や非営利団体、非政府組織(NGO)などの尽力により、生産者が受け取る利益が上がった事例もあります。
1995年にミンダナオ島で立ち上がった「ファームコープ(FARMCOOP)」という農業組合の活動により、農業組合が買い取り価格の高い企業と契約を締結できるようになりました。
この契約では、バナナ1箱が4.5米ドルで取引されるようになり、プランテーションで働いていた子どもが学校に通えるようになったという声から、改善が見られている地域もあるようです。
労働条件に関する問題に加えて、農薬の空中散布による健康被害を防ぐために、複数のNGOや環境団体が空中散布を禁止するように求める活動を行ってきました。
ミンダナオ島のダバオ市では、2007年に空中散布を禁止する条例が可決されましたが、その後も条例の効力をめぐり裁判で争われています。
コラム
バナナ業界にまつわる問題は、貿易価格や労働条件、病気に関することなど、フィリピンに限らず、世界の生産国でいえることが多いです。
そして、問題に関与しているのは、農家や労働者に不公平な制度を課す企業はもちろんのこと、「安さ」を求める高所得国の最終消費者、つまり私たちの存在もあります。
生産者である現地の農家や労働者が現実的で公平な対価を受け取り、現地住民が安全に暮らせるためには、消費者は現状の仕組みを理解し、エシカル(倫理的)な視点を持って購買行動に起こすことが必要ではないでしょうか。
フェアトレードについて詳しく書いてる記事もあるので是非読んでみてください。