みなさんこんにちは、コクレポです。
2020年9月から11月に起きた、ナゴルノ・カラバフ紛争を知ってますか?
日本のニュースでも時々取り上げられていたので聞いたことある人もいるかもしれません。
ナゴルノ・カラバフ境界沿いでアルメニアとアゼルバイジャンの間で軍事衝突が起こり、両国あわせて5,000人以上の死者数が出ました。
今回は、このナゴルノ・カラバフについて、これまでの経緯と、今回の紛争、その背景について解説します。
これまでの経緯
南コーサカス(ジョージア・アルメニア・アゼルバイジャン)は、19世紀以降、ロシア帝国の支配下でした。
ロシア革命(1917年)後の1918年に、この3か国が独立を宣言しました。
このとき、アルメニアとアゼルバイジャンの間では、ナゴルノ・カラバフがどっちの国に帰属するのかという問題が発生し、軍事衝突になりました。
1920年に南コーサカスはソ連に占領され、1922年にソ連に加盟(1936年に3か国に分割)しました。
このとき共産党によって、ナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャン領(1923年に自治州になる)と決定されました。
でも、ナゴルノ・カラバフに住む人々は、アルメニア人としてのアイデンティティを持っていました。
1980年代後半、ソ連が弱体化すると、自治州内からアルメニアと合併したい!という声が高まります。
1988年2月にナゴルノ・カラバフ自治州は、アルメニアの帰属決議を採択しました。
同時にアルメニア系住民とアゼルバイジャン系住民(アゼリ人)との間の衝突も発生するようになり、本格的な武力紛争へと発展しました。(第1次ナゴルノ・カラバフ紛争)
1991年、ナゴルノ・カラバフ自治州は「アルツァフ共和国」としての独立を宣言しました。
アルメニア勢力が実質的にこの紛争に勝利して、アルメニアは、ナゴルノ・カラバフとその周辺の領有権も主張するようになりました。
1994年、ロシアの仲介によって停戦協約が結ばれ、激しい戦争は停戦となりました。
死者は約3万人、難民は100万人以上にも上りました。
この「アルツァフ共和国」はアルメニアも含めて国連加盟国からは未承認で、国際法上はナゴルノ・カラバフやその周辺地域はアゼルバイジャン領です。
停戦後しばらくは小さい衝突程度でおさまっていたんですが、2016年以降少しずつ激化し、軍事衝突が散発的に発生していました。
そして今回、第2次ナゴルノ・カラバフ紛争とも呼ばれる激しい軍事衝突が起こってしまいました。
第2次ナゴルノ・カラバフ紛争
2020年9月27日、ナゴルノ・カラバフ境界沿いでアルメニアとアゼルバイジャンの間で軍事衝突が起こりました。
アゼルバイジャン側はトルコ、イスラエルなどが支援しました。
トルコはシリアの約320人の雇い兵をアゼルバイジャンに送りました。
一方、アルメニアはアメリカ、フランス、ロシアの支援を期待していましたが、得ることができませんでした。
特にロシアは、アルメニアに有事があれば防衛を助けるという協定を結んでいるんですが、戦闘地域(ナゴルノ・カラバフ)がアルメニア領土内ではないことを理由に静観していました。
実質的にアゼルバイジャン側が勝利し、ナゴルノ・カラバフに住んでいたアルメニア人は避難し、アゼルバイジャンが奪い返すことになりました。
20年11月9日ロシアの仲介で停戦合意し、10日から停戦となりました。
なぜこの地域に平和がもたらされることがないんでしょうか?
紛争激化の背景には
アゼルバイジャンは、国連の安全保障理事会や総会が出した「アルメニアに占領されているナゴルノ・カラバフと7つの地域がアゼルバイジャン領である」という明言に基づいて、領土保全を主張しています。
一方で、アルメニアはナゴルノ・カラバフ住民による自治権を尊重すべきだと主張しています。
このような認識のずれは1994年以降も継続して存在していました。
でもなんで2016年から激化してしまったんでしょう?
まず、石油価格の低下に伴う国内の不景気です。
アゼルバイジャンにはバクー油田があって、他国への輸出のおよそ9割を石油が占めています。石油の価格が下がったため経済が停滞しました。
一方で、アルメニアは国内に油田はないんですが、アルメニアの経済はロシアに依存しているため、ロシアの経済停滞によって停滞していました。
このような状況の下で、両国内では、「ナゴルノカラバフ問題」に国民の関心を向けさせて、国民の不満をそらす切り札として使っていました。
また、この地域で影響力を持つ2つの大国、ロシアとトルコとの間の関係悪化も背景にあります。
難航する和平交渉
ナゴルノ・カラバフをめぐる争いの和平交渉は、アメリカ、ロシア、フランスを中心として行われています。
この3カ国が、ナゴルノ・カラバフ問題を平和に解決することを目的として結成された、ミンスク・グループの共同議長国だからです。
和平交渉の論点としては、もともとのナゴルノ・カラバフ自治州の領域外でナゴルノ・カラバフが占領している地域の返還や、ナゴルノ・カラバフの地位、難民を帰還させることの主に3つですが、まだ、どの点においても合意がなされていません。
ナゴルノ・カラバフの住民を対象に行われた調査によると、住民の約85%がソ連時代の自治州の境界線に戻すことに反対していて、平和を実現するために領土の割譲を検討する意思がある人々の割合は全体の26%に過ぎません。
このことからも両者の合意を得ることがかなり難しいことがわかります。
実際に、2017年までにナゴルノ・カラバフとアゼルバイジャン間の停戦ライン付近では、たった6人の監察官により監視されているだけで、紛争予防は不十分でした。
今回の停戦協定では、ナゴルノ・カラバフ境界線にはロシア軍の平和維持部隊を展開することが決まりました。
他国の思惑
当事国以外の国家の立場からナゴルノ・カラバフ問題について考えてみましょう。
ロシア
まず最も深く関わっているのが、ロシアです。
ロシアはアゼルバイジャンとアルメニアの両国に武器供給も行っています。
アゼルバイジャンに至っては、輸入武器の8割がロシアからです。
アルメニアとは協定を結んで軍隊を常駐させていて、有事にはアルメニアの防衛を行うことにもなっています。
今回の紛争停戦協定で、ナゴルノ・カラバフ境界線にロシア軍の平和部隊を展開することになったので、結果としてロシアのナゴルノ・カラバフへの影響力は強まりました。
そして、ロシアはこの地域のアルメニア系住民に対して、人道支援という名目でロシア国籍を与え始めています。
この場合、アルメニアのこの地域に対しての影響力は小さくなってしまうことになります。
ロシアの最終的な狙いは「沿ドニエストル共和国」(ロシアがモルドバから分離独立させた国家。国連加盟国からは未承認。)のように、ナゴルノ・カラバフを「国家」として分離して、ロシアの影響力を確保することです。
トルコ
トルコに関しては、第一次世界大戦時にアルメニア人を大虐殺した歴史があるため、現在も外交関係が断交されています。
一方で、民族・言語的にもつながりが強いトルコとアゼルバイジャンは非常に良好な関係です。
トルコは今回の紛争の結果、アゼルバイジャンへの影響力を強めました。
トルコはアゼルバイジャンのトルコへの依存度を強めて、ナゴルノ・カラバフに軍事基地を建設して、トルコが支援するイスラム過激派をこの基地に移動させたいと考えています。
実際、トルコはアゼルバイジャンを支援するために、シリアで訓練された武装勢力を移送していると、紛争発生当初から何度も指摘されています。
今回の紛争でもイスラム過激派がトルコによって、シリア、リビアから送られ戦闘に参加していることは問題死されています。(もちろんトルコ、アゼルバイジャンは否定していますが。)
そして、ヨーロッパ諸国によるインフラ計画もナゴルノ・カラバフ問題が他国の干渉を受ける要因の1つです。
ヨーロッパ
ヨーロッパ諸国は、ロシアに対する天然資源の輸入依存度を軽減する手段としてこの計画を考えました。
中央アジアからヨーロッパへとつなぐパプラインや、アゼルバイジャンの首都であるバクーからジョージアの都市トビリシを経由し、トルコのジェイハンへと繋がるバクー・トビリシ・ジェイハンパイプラインを作る計画です。
この地域において戦闘が起こった場合には、パイプラインを通る石油や天然ガスの供給を停止するしかありません。
なので、欧米諸国やトルコはナゴルノ・カラバフの戦闘を防ぎたいと思っています。
もちろんロシアは、このような欧米のインフラ計画がうまくいってしまったら、ヨーロッパへの影響力が低下してしまうかもしれないので嫌ですよね。
なので、継続するナゴルノ・カラバフにおける緊張状態はロシアに利益をもたらしているとも言えるんです。
イランは、1990年代のナゴルノ・カラバフ紛争の際、アルメニア側に支援を行って、現在もアルメニアとの良好な関係を保っています。
コラム
ナゴルノ・カラバフ紛争はアルメニアVSアゼルバイジャンという簡単な構図ではないんですね。
天然資源や民族・歴史的な仲間意識などの他国の思惑が複雑に絡んで、問題解決がさらに難しくなっているんです。
アゼルバイジャンでは「ナゴルノ・カラバフは奪われた土地」と教育されているので、取り返したいという気持ちが強く、ナゴルノ・カラバフに住む市民たちはアゼルバイジャンの領土にはなりたくないと思っていました。
今回の紛争で無理やりナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャン領となってしまいましたが、停戦後も軍事攻撃は続いています。
メディアは紛争が激しい時だけ注目して、その後はほったらかし、ではなく、根本的な背景や他国のたくらみについても、客観的に情報を提供しないといけないんじゃないかなと思います。