前回の記事で世界の人身売買の現状について書きました。
では、今回は日本のメディアが報じる人身売買と、現状のギャップをデータで比べてみましょう。
GNVは1989年1月から2018年12月までの読売新聞を調査し、国際面の記事中で人身売買を主な内容として取り上げているものをピックアップしました。
それぞれの記事を平等に計数するため、1つの記事で2つのテーマや国を扱っている場合、それぞれ0.5記事として計数してます。
(たとえば、1つの記事が女性と子供のことを報じている場合、女性に関する記事0.5記事、子供に関する記事0.5記事としています。)
30年間の記事を対象にして、人身売買の内容を扱っているものはたったの109記事、つまり、平均して年に3.6記事程度でしか報じられていませんでした。
どんな国が報道されてる?
2009年から2018年の10年間で3記事を超えている国は中国とミャンマーだけです。
それだけではなく、人身売買が最も深刻な段階3に8年間連続エントリーした6か国について扱っている記事も、10年で34記事しかなく、しかもリビアと北朝鮮の2か国についてだけでした。
さらに、段階2(監視リスト)の31か国のうち、記事に登場したのは、中国、ロシア、ミャンマー、シリア、マレーシア、ハイチの6か国だけ。
段階2は104か国中、イラク、カンボジア、ナイジェリア、インド、バングラデシュ、インドネシア、ベトナムの7か国だけでした。
この少ない記事数で世界の人身売買の実態をとらえることはほとんど不可能です。
どんなタイプの人身売買が報じられてる?
1989年から2009年の30年間で成人女性に注目しているものは49.5記事(45.4%)でした。
特に、性的搾取に関する記事に占める割合は女性が大きく占めていて、性的搾取のみを扱う記事36記事中、女性に関するものは27記事ありました。
前回記事でも書いたように、世界における人身売買の50%が性的搾取で、そのほとんどは女性の被害であるため、女性の性的搾取を扱う記事が半数近くあるという点では、人身売買のタイプの傾向をとらえられているということもできます。
でもたとえば、イエメンでは、移民・難民を含む多くの女性が性的産業に従事させられていることが報告されていますが、そのことに関する報道は1つもありませんでした。
記事数として、成人女性の次に多かったのは子供について報じているもので、34.5記事(31.7%)ありました。
2000年代からは、児童ポルノによる子供の被害も報じられるようになり、関連する世界会議の内容も報じられました。
2014年には、西洋式の教育に反対するナイジェリアの過激派組織、「ボコ・ハラム」による女子生徒誘拐事件が報じられて、犯行グループが少女たちの売買を宣言するなど、教育を受ける権利や宗教の自由が著しく侵害されている現状が報道されていました。
さらに最近では、移民・難民における人身売買を主に取り扱った記事も増えてきていて、1989年~2008年までの20年間では1記事しかなかったのが、2009年~2018年の10年間で急に記事数が増加して、9記事になっています。
中でもミャンマーからバングラデッシュに逃れたロヒンギャ難民への関心の高まりに乗じた関連記事が多く、多数の国が問題に関与していること、そしてその解決に向けて相互協力のもと、包括的な解決を図ろうとしていることなどを記事から読み取ることができました。
でも、主にサハラ以南のアフリカからヨーロッパへ向かう移民や難民の中継地となっているアルジェリア、ニジェール、スーダンなどでの移民や難民の搾取は、全く報道されていません。
この事例は1例にすぎず、日本の報道に見過ごされている現状は山ほど存在しています。
コラム
こんな深刻な状況があっても、人身売買に関する情報に触れる機会がほとんどないですよね。
スポーツとかエンタメとか、もちろんおもしろいから読みたいけど、スポーツとこんな大きな問題の国際問題が報道される量がいっしょってどうなのかな?と思います。
国際ニュースでも、イギリス王室だれだれが結婚!こんなドレスを着てました!とかっていう方が、人が実際に奴隷として働かされてたり死んでしまってたりすることより報道されてしまうのって、どうなんでしょうか・・?