SDGsの報道おかしくない?

みなさんこんにちは、コクレポです。

これまでSDGsについてそれぞれの目標、ターゲットを詳しく解説してきました。

なんとなく聞いたことあるSDGsだけど、それぞれの目標については知らなかったな、それぞれにターゲットも設定されてたんだ!って人も多いんじゃないでしょうか?

このSDGsという言葉自体は、日本でも聞いたことあるって人はだいぶ増えてきました。

でも、SDGsの問題の本質を正確に捉えた報道は果たしてどれくらいあるんでしょうか?

今回は報道に着目してSDGsがどのように報じられているのかを分析していきます。

United Nations Department of Public Information / 博報堂クリエイティブ・ボランティア

SDGs策定の背景

報道の分析をする前に、SDGsって?17の目標と現状をわかりやすく解説!で書いてますが、さらっとSDGsが策定された背景について復習しましょう。

SDGsは世界の様々な課題に対して17の達成目標と169のゴールを定めています。

SDGsが取り扱う分野は貧困、ジェンダーや教育、保健・医療、環境問題、労働の問題さらには食や平和など多岐にわたります。

それら1つ1つの目標が、相互に関連し合いながら、貧困を終わらせること、不平等と戦うことそして気候変動に取り組むことを目指さしているのがSDGsです。

でも、このような国際的な開発目標が定められたのはSDGsが初めてじゃなかったですよね。

2000年には2015年までに解決が必要な世界の課題として、ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)が定められていました。

MDGsでは、一部の目標については達成したものの、完全な目標達成には至らなかったという問題が残りました。

貧困の解決はMDGsの第1目標として掲げられていました。

「2015年までに1日1ドル未満で暮らす世界の人口の割合を1990年の水準と比較して半減させる」 という目標は、2015年の時点で達成されたとされています。

でも、これは中国の急速な経済成長やインドの発展に依るところが大きいです。

世界全体では、一部の地域において極度の貧困状態にある人口割合の半減は達成されませんでした。

極度の貧困状態にある人口が集中しているアフリカ大陸全体では貧困者の数だけで見れば、半減どころか、貧困者数が増えています

その他にもMDGsが目標としていた、5歳以下の子どもの死亡率や妊産婦の健康の改善などは、改善傾向にはあるものの、目標の数値には届きませんでした

そこで、次の15年に向けて世界の課題解決を目標として打ち出されたのがSDGsです。

MDGsでは主に途上国の課題に焦点を当てていたのに対して、SDGsは世界を包括的に捉えて課題の解決を目指すものです。

これは、SDGsの「ゴール17:パートナーシップで目標を達成しよう」にも現れています。

今日の世界のさまざまな課題を解決するためには、多様な主体が世界の問題に関わり、解決に向けて世界全体が協力し合いアクションを起こす必要があります。

また、MDGsでは特定の地域で目標達成に大幅な遅れが見られたこともあり、SDGsの根幹をなすコンセプトとして「誰1人取り残さない(“no one will be left behind”)」というスローガンが掲げられました。

どのように報道されているのか?

SDGsという言葉が日本社会へ浸透してきた背景には、SDGsという言葉が報道を含めさまざまな場面で使われていると考えられます。

最近では政府や企業、NGOなどいろんなアクターがこの目標を用いたキャンペーンやイベント、プロジェクトを行なっています。

でも、SDGsの問題の本質を正確に捉えた報道は果たしてどれくらいあるんでしょうか?

今回は報道に着目してSDGsがどのように報じられているのかを分析していきます。

SDGsの策定の背景には、世界の目を背けることができない課題がたくさんあります。

では、SDGsの背景にある問題、その改善策やその可能性と限界など、SDGsは日本の報道でどのように切り取られてきたんでしょうか?

読売新聞のデータベースで過去5年(2014年から2018年まで)の記事を検索すると「SDGs」または「持続可能な開発目標」という単語を含む記事は104件ありました。

2014年から2018年にかけてSDGs関連の記事が徐々に記事数が増えていっていることがわかります。

半年ごとの記事件数の推移をみてみると以下のグラフのようになりました。

まず注目したいのが、SDGsが採択された2015年から2017年の後半まで、報道量でみるとSDGsがほとんど話題になっていないということです。

でも、その中でも2016年の前半で報道量が少し増えています。

では、2016年の前半で報道量が一時的にやや増加した背景には何があったんでしょうか?

2016年1月から6月までの実際の報道内容を見ると、第42回先進国首脳会議(G7伊勢志摩サミット)関連の記事が約半数でした。

伊勢志摩サミットに先立つ2016年5月20日、サミット議長でもあった日本の安倍元首相は「持続可能な開発目標推進本部」で日本のSDGs貢献策を表明し、SDGsが採択されてから初となるG7サミットでSDGsを意識していたことがわかります。

でも、G7サミットの主要議題には、世界経済・貿易、政治・外交問題、気候変動・エネルギーといった独立した議題と並列して、開発という項目があり、その中でSDGsに触れられるにとどまりました

つまりG7サミットでSDGsは意識されはしたものの、主要議題にはなりませんでした。

分析した記事でも同様の傾向が読み取れました。

すなわち、SDGsが記事中に登場はするものの、伊勢志摩サミットに関連させてSDGsの目標達成など、SDGsを何らかの形で主要なテーマとしている記事はなかったです。

さらに、2017年後半に記事数が一気に増え、その後2018年前半、2018年後半と3期間で記事数はだんだんと増えていっています。

2017年の後半の記事の増加を後押ししたものとして2017年7月にコメディアンのピコ太郎が国連ハイレベル政治フォーラムでパフォーマンスをしたことが挙げられます。

ピコ太郎は同フォーラムで国連版PPAP(Public Private Action for Partnership:官と民の連携に向けた取り組み)を披露しました。

このパフォーマンスはYoutubeでも25万回以上再生され、SDGsという言葉が日本で認知される一要因になった可能性はあります。

ピコ太郎 × 外務省(SDGs)~PPAP~

2017年7月の7件の記事中4件の記事がピコ太郎に言及しています。

そのような流れを受けたのか、2018年にはSDGsもしくは持続可能な開発目標という単語を含む記事の件数が最も多くなりました。

では、これらの記事で何が報道されていたのでしょうか。

以下ではSDGsに関連する報道の内容を分析していきます。

万博のためのSDGs報道?

2018年11月の記事数の増加の原因を探ると、13件の記事中、約半数の7件が2025年の大阪万博関連でした。

大阪万博は、その開催目的として、「サイバー空間とフィジカル空間を融合させ人に豊かさをもたらす社会」である国家戦略Society5.0とともにSDGsが達成される社会が掲げられていました。

万博誘致のために用いられたSDGsの枠組みは新聞の中でも同じように登場しています。

読売新聞の報道でも万博がSDGs達成を後押しすることを目標として掲げていることに触れ、国際的な課題解決を意識した万博である旨が記述されています(※2)。

でも、実際のところ大阪万博がどれほどSDGs達成に向けて積極的であるのかと考えるとその提案書の具体性のなさからも疑問が残ります。

むしろ、自国のため(万博誘致のため)に「SDGsに貢献」というレトリックを巧みに使っただけという印象を受けるのは私だけでしょうか?

2018年後半でSDGsもしくは持続可能な開発目標という単語を含む記事は27件あり、そのうち10件、3割程度が万博関連の記事でした。

その中で、SDGsの掲げる世界の課題について具体的に報じた記事はほとんどありません。

万博の報道ですら、SDGsが掲げる世界の課題についてほとんど報じていない状況で、「SDGsに貢献する万博」と言えるのでしょうか?

「SDGsに貢献する万博」という誘致委員のレトリックを追いかける新聞報道という構図はG7サミットでのSDGs報道と共通しています。

このように、SDGsや持続可能な開発目標という言葉が様々な方面で使われる一方で、SDGsの背景にある問題と各ゴール達成に向けた正しい理解が促進されているのかという点には疑問が残ります。

そこでSDGsという言葉と関連してどのような事柄が報道されているのか、貧困問題に焦点を当ててさらに掘り下げてみました。

すると、今回の分析に用いたSDGsもしくは持続可能な開発という単語を含む104件の記事のうち、「貧困」という単語が含まれる記事は50件ありました。

でも、ほとんどの記事はSDGsの概要説明として貧困という言葉が用いられているに過ぎません。

世界の貧困や途上国の貧困がSDGsという言葉とともに登場した記事は104件中わずか6件にとどまりました。

そして途上国がメインテーマのものは5年間でなんと1件だけでした。

わずか6件の世界の貧困を報じるSDGs関連記事でさえ、ほかは途上国で活動する日本のNPOがメインテーマになっていたりと、貧困国や途上国が主体となっている記事はほとんどないんです。

世界の貧困とSDGsを関連して報道することはとっても少ないです。

貧困だけでなく、不平等や飢餓、気候変動や平和などの問題に関して世界、特にそれらの問題の早急な解決を必要とする地域や人々へのフォーカスは少ないです。

SDGsに向き合える報道に向けて

現状の日本のSDGs報道はSDGs策定の背景にある問題や、その解決策を詳細に報じているとは言えません。

むしろ、日本国内の事柄について、読者の関心を引くキーワードとして使用されているとも捉えられかねません。

もちろん、SDGsは途上国だけが対象ではありません。

経済成長、社会包摂、環境保護というSDGsの根幹は、どの社会にも存在しているからです。

日本社会の中にも貧困や不平等の問題があります。

絶対的貧困や飢餓、国と国との不平等などの人間の尊厳を脅かす問題は世界中にあります。

これらの問題の解決に向けたアクションを世界のパートナーとして起こすこともまた、急務です。

つまり、SDGsの達成には自国の問題だけでなく世界にも目を向けたアクションが取られなければなりません。

タンザニアのある村の水源で水を汲む女性(写真:Bob Metcalf/Wikimedia (Public Domain)

コラム

いま、世界の不平等は広がる一方です。

そして、現在のままのペースでいけば、アフリカで極度の貧困とされる人々が人口全体のおよそ10%となるのが2050年、SDGs達成目標年から20年後となります。

言い換えれば、このままではSDGsの目標年から20年が経過した2050年になっても、世界で極度の貧困がゼロになることはないです。

「誰1人取り残さない」目標を、最も弱い立場の人々なしに語ることはできません。

そうでなければ、「誰1人取り残さない」という言葉はただの形骸化したコンセプトに過ぎず、SDGsは達成されません。

今回見てきたようにSDGsやSDGsの背景にある問題に関して、報道はごく限られた見方でSDGsを報じています。

本来、世界について我々に伝える役割を担う報道がこのような状況にある中で、私たちはどれだけ世界のさまざまな問題について理解を深めていけるんでしょうか。

チョコレートの裏側の記事ファッションの裏側の記事でも書いたように、世界の問題と私たちの生活は切り離すことができないほど、グローバル化は進んでいます。

SDGsに掲げられている数々の問題は、私たちに関わる問題です。

※1 世界銀行のデータを元の作成。ここで表されている貧困者とは世界銀行が定めた1日1.9ドルの絶対的貧困ラインを元に算出。南アジアについては1999年と2015年のデータがなかったため、それぞれ2002年と2014年のデータ。

※2 読売新聞 2018年11月25日「大阪万博 海上の夢空間 2025年開催決定=特集」や 読売新聞 2018年11月25日 「環境と経済成長 両立 大阪人の温かさ 強調 万博 最終PR」など。

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