みなさんこんにちは、コクレポです。
2021年10月3日、タックスヘイブン(租税回避地)を利用した金融取引を記したパンドラ文書が国際ジャーナリスト調査連合(ICIJ) によって暴露されました。
過去最大のリークかつ最大規模の調査報道となった今回の発表で、世界の政治家や大富豪たちが隠れて保有していた富が明るみに出ました。
多数の国の首脳陣や、日本を含む各国の有名人も文書に名前が記載されています。
今回の記事では、パンドラ文書とは何か、詳しく説明します。
そして次の記事で、社会の不平等を助長している現在の経済システムに大きな一石を投じるきっかけとなったはずのこの事件、日本ではなぜあまり報道されなかったか、説明したいと思います。
タックスヘイブン問題と過去のリーク
そもそもタックスヘイブンとは何?という人はこちらの記事を!
タックスヘイブン(またはオフショア金融センター)とは、外国企業や法人に対する法人税をきわめて低く、またはゼロに設定している国や地域のことです。
タックスヘイブンの特徴の一つに、情報の秘匿性があります。
タックスヘイブンで設立された企業とその所有者に関する情報公開は制限されています。
そこで世界各国からの個人や企業が租税回避や脱税を目的に利用されています。
租税関連以外にも、追跡から逃れて資金を隠したり、金融などに関する規制や手続きから逃れたり、マネーロンダリング等の犯罪行為を行ったりすることができます。
ある試算によれば、世界の経済活動のおよそ10%がタックスヘイブンに移転されていると言われています。
タックスヘイブンの利用に必要な要素の1つに、ペーパーカンパニーや、基金、信託会社があります。
ペーパーカンパニーとは法人として登録はされているものの、事業活動の実態が伴わない会社のことです。
企業はタックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立させ、実際の所有者の存在を隠し、利益を移転させます。
こうすることで、課税回避や規制逃れ、マネーロンダリング等の犯罪、そして資産を隠すことができます。
また、利用する個人や企業は基金をタックスヘイブンに設置したり、信託会社を利用したりして、財産を保管するという仕組みもあります。
加えて、タックスヘイブンのインフラを提供しているのは法律事務所や会計事務所、大手銀行などです。
タックスヘイブンの問題点
ではなぜタックスヘイブンは問題になるんでしょう?
大きな問題の1つは、社会全体を豊かにするために課せられるはずの税金が、平等に徴収されなくなることです。
タックスヘイブンを利用することによって資産家たちや法人は何億米ドル相当にものぼる税金の支払い義務から逃れています。
2016年には世界各国で本来なら得られるはずの税収2千億米ドル以上が徴収されなかったという研究結果が発表されています。
では資産家たちが支払いから逃れた税金は誰が払うんでしょう?
それは、大きな資産を持たない残りの多くの市民です。
タックスヘイブンを利用した租税逃れはそもそも、大きな資産を保有する富豪にしか利用できない仕組みです。
しかも、情報の秘匿性という特徴から、資産がタックスヘイブンを利用して隠されてしまうと、資産家たちが適切な税金を支払っているのかどうかさえ、第三者がチェックできなくなってしまいます。
この秘匿性があるためにタックスヘイブンという問題自体が見えてこず、租税逃れが発生しているのかどうかも知るのが難しくなっています。
また、こうしたタックスヘイブン問題で特に大きな被害を受けるのは低所得国です。
経済基盤が安定していない低所得国ほど、道路や学校、病院といったインフラ設備や、そこで働く教師、医療従事者等公務員の重要性が高まります。
にもかかわらず、公共出費を賄うのに必要不可欠な税金が平等に徴収されなくなってしまいます。
法整備やチェック機能が比較的に脆弱な低所得国では特に、外資系企業がタックスヘイブンの仕組みを用いて、不法資本流出をさせているケースが特に激しいんです。
問題になるのは税徴収の面だけではありません。
タックスヘイブンを利用すれば、一般の法人や個人には課せられるはずの規制等からも逃れることができてしまいます。
たとえば、労働法関連の規制を逃れ、賃金や保障のレベルを下げていたケースが報告されています。
また、銀行が情報の不透明性を利用して規制を回避し、本来であれば高リスクのため禁じられているような投資を行うこともあります。
こうして、富の不平等がますます深くなっています。
これまでのリーク
内部告発者からのデータをもとに、タックスヘイブンを使った取引の暴露は過去にも度々発生しています。
最初に行われた調査はオフショア・リークスと呼ばれました。
これは2012年11月と2013年4月の2度にわたってICIJが暴露したもので、ポートカリス・トラスト・ネットとコモンウェルス信託会社から流出したデータです。
次に2014年1月にもオフショア・リークスの一環として、中国、台湾、香港の、オフショア企業を保有する人物の名前が公開されました。
2014年12月のルクセンブルク・リークス(ルクス・リークス)では、大手会計事務所のプライス・ウォーターハウス・クーパースとルクセンブルクの税務当局が行った課税優遇措置が明らかになっています。
また2015年2月のスイス・リークスでは英金融大手HSBCが行った租税回避・脱税のほう助を行っていたことがわかりました。
2016年4月には、パナマの法律事務所モサック・フォンセカから情報が流出し、当時最大規模のリークであったパナマ文書についての報道が開始されました。
2016年9月には、カリブ海に位置するタックスヘイブンであるバハマの法人に関する情報を記したバハマ文書。
2017年11月にはパラダイス文書で、大手法律事務所アップルビーから流出した取引が明らかになりました。
2020年9月のフィンセン文書は、アメリカの金融犯罪取締ネットワーク部局(FinCEN)に提出された不信行為報告書が流出したことにより明らかになりました。
世界の大手銀行がマネーロンダリングや金融犯罪を野放しにしていた事実が明るみに出ています。
パンドラ文書とは
次に、最新のリークであるパンドラ文書を説明します。
パンドラ文書は5年前のパナマ文書の規模を上回る過去最大のリークとなっていて、文書や画像、メール等を含む1,190万件以上、2.94テラバイトもの大きさのデータです。
14の会計事務所、法律事務所、コンサルティング会社等仲介を担う機関から流出したデータで、ICIJが150の報道機関に所属する600人以上のジャーナリストたちの協力のもと、2年の歳月をかけて情報の分析を行いました。
パンドラ文書は35人の現職又は過去の首脳、91の国や地域における330人以上の政治家や官僚、そして資産家や法人、芸能人、犯罪者たちによるタックスヘイブンを利用した取引を明らかにしたもので、文書に記載のあったペーパーカンパニーの数は29,000以上に及びます。
パンドラ文書に記載のあった人
首脳陣の名前としては・・
ヨルダンの国王アブドゥラ2世・ビン・アル=フセイン氏、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領、ケニアのウフル・ケニヤッタ大統領、エクアドルのギレルモ・ラッソ大統領、チェコのアンドレイ・バビシュ首相、チリのセバスティアン・ピニェラ大統領など。
他にも、イギリスのトニー・ブレア元首相、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の側近、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領の子息などの名前もありました。
有名人では・・
リンゴ・スター氏やエルトン・ジョン氏といったミュージシャンや、モデルのクラウディア・シファー氏の名前も。
日本では・・
孫正義氏(ソフトバンクグループ会長兼社長)、平田竹男氏(元内閣官房東京五輪パラリンピック推進本部事務局長)、安田隆夫氏(ドン・キホーテ創業者)、原丈人氏(未来トラスト会長)らの名前が挙がっています。
パンドラ文書による影響
パンドラ文書による影響を受けた派生事件が1カ月もたたないうちにいくつか発生しています。
文書に名前が挙がったチェコのバビシュ首相率いる与党は下院選において敗北し、政権交代に繋がりました。
チリ議会下院では、ピニェラ大統領の弾劾が可決されました。
結局与党が過半数を占める上院にて弾劾案は否決されましたが、パンドラ文書の大きな派生事件の一つと言えます。
エクアドルのラッソ大統領は脱税の疑いで調査されることが決定しています。
またアメリカでは、パンドラ文書の影響により、国内に資産を移転させようとしている国外顧客がいないかどうか、信託会社、法律事務所等の仲介業者に強制的に調査させるための法案が議会に提出されました。
加えて欧州議会では、パンドラ文書により明らかとなった不正行為について調査を進めるための決議、そして現行法を正確に履行していないEU加盟国に対して欧州委員会が法的措置をとるための決議が採択されました。
また、政界以外にもいくつか動きが。
美術商のダグラス・ラッチフォード氏に関する情報が文書に記載された結果、カンボジアの古代遺跡から略奪された文化財が、タックスヘイブンの信託の管理下に移されていたことが発覚し、カンボジアへ返還されることが決定しました。
次の記事では、なぜパンドラ文書が日本であまり報道されなかったのか、説明したいと思います。