エルサルバドル世界最悪殺人率が半減!?原因・現状・対策は?

エルサルバドル世界最悪殺人率が半減!?原因・現状・対策は?

みなさんこんにちは、コクレポです。

みなさん世界最悪の殺人率を記録した、エルサルバドルって国知ってますか?

めっちゃ怖そうな国ですが、2019年から2020年でこの国の殺人率が半減したんです。

一体何が起こったんでしょう?

今回は、そもそもなんでこんなに殺人率が高いのか、そしてなんで半減することに成功したか、一緒にみていきましょう。

なぜ多くの殺人が起こっていたのか

殺人首都」と呼ばれてきたサンサルバドルでは、2015年、6,656件の殺人がありました。

数ピンとこないですが、1日平均で計算したら、毎日18人以上が殺されたってことですよね。

世界平均の17倍以上の殺人率です。

この殺人の多さは、この国の貧しいコミュニティに根差すギャングの存在や、近年まで続いた紛争の歴史、そして違法麻薬の国際貿易の中継地点になってる、などの要因があります。

紛争の歴史・アメリカロシアの介入

エルサルバドルは、コロンブスがアメリカ大国に到達した16世紀からスペインの植民地になりました。

1800年代初頭、メキシコ帝国の一部としてスペインから独立した後、メキシコから他の中央アメリカの国といっしょに中央アメリカ連邦として分離しました。

さらにその後、連邦からエルサルバドル共和国として独立し、現在の国家を形成しました。

エルサルバドルでは主にコーヒーの生産によって経済を発展させてきたという背景もあって、いまでもエルサルバドル産コーヒーって見かけることありますよね。


でもこのせいで、独立当初から、コーヒー豆を育てる土地を持つ地主が大きな力を持つという構図が定着し、経済的な格差、対立が生じていました。

そんな中、1959年に隣の国キューバで革命が成功し、社会主義国家が誕生したことをうけ、1972年からエルサルバドルでも反政府の紛争が始まりました。

ちょうどそのころ、世界は社会主義を掲げるソビエト連邦と資本主義を掲げるアメリカ合衆国が対立する冷戦状態でした。

当時の中央アメリカ一帯は、「アメリカの裏庭」とも呼ばれるほどアメリカの影響力の強く、ソ連は政治的に不安定なエルサルバドルに目をつけました。

エルサルバドルは親米軍事政権だったので、これに対抗する勢力を強化したいという思惑で、エルサルバドルの左翼ゲリラを支援しました。

アメリカもそれに対抗して親米政権に対する支援を強化し、エルサルバドルでの紛争は加速していきました。

1980年から1992年の政府VS社会主義勢力の紛争は70,000人が死亡するほど大規模なものでした。

米ソの各陣営への軍事支援は紛争を大規模化させ、国民の生活は困窮していきました。

それに加え紛争によって、インフラの破壊や産業の荒廃、戦争孤児や少年兵の増加といった問題も生まれました。

冷戦終了後、米ソの介入がなくなった後も、民主主義は機能しておらず、政治は腐敗しています。

紛争終結以降、米ソの対立を残すように親米派の国民共和党同盟(ARENA)と元左派ゲリラによって構成されるファラブンド・マルティ民族解放戦線(FMLN)の2つの政党の間で交互に政権が独占され、不安定な状態が続いていました。

自国で起きる犯罪の対処もままなっておらず、政府機関は汚職にまみれていました。

税関の職員などには麻薬密輸に加担している人もいました。

武装する警察官(写真: Presidencia El Salvador / Wikimedia Commons[CC0 1.0])

ギャング

このような国内の不安定さに加えて、1990年代にアメリカから追放されたギャング達がエルサルバドルへと流れ込んだことが、殺人率の上昇を促す要因の1つになりました。

彼らはカリフォルニア州で組織化された、MS-13や18番街と呼ばれるギャングでした。

彼らの多くはエルサルバドル紛争中に難民としてエルサルバドルからアメリカに流入した人達が、現地のギャング達と合流し、勢力を増して組織になったものです。

M-13のギャングたち

エルサルバドルの紛争終了後、当時カリフォルニア州の知事だったピート・ウィルソン氏が、力を増し犯罪をし続けるギャングへの対策として、移民である彼らを強制送還し始めたことが、エルサルバドルでのギャングの台頭に繋がりました。

現在、ギャングや彼らに協力する人たちは、人口約650万人中、約50万人存在しています。

これはエルサルバドルの警察約25,000人と軍人約13,000人を超える人数です。

彼らによって多くの殺人が引き起こされるとともに、金銭を市民や中小企業から脅し取ること、性犯罪なども繰り返し行われ続けてきました。

特に市民や地元企業から奪った金銭はギャングの資金源の80%を占め、GDPの約3%もの金額を占めているとされます。

さらに問題となっているのが、若者たちがギャングに勧誘され、加入してしまうことです。

エルサルバドルでは紛争によって、その後の経済不安から移民した親に取り残された子供、さらには紛争で親を失った子供がたくさんいます。

そのような境遇にいる孤独な若者達に、ギャング達は近づき勧誘し、仲間に引き込むんです。

麻薬取引の中継地

またこのエルサルバドルが、麻薬取引の経由地となってしまっていることも殺人を起こす大きな要因の1つです。

コロンビア、ペルー、ボリビアといった南アメリカの国で栽培されたコカイン等の麻薬が、麻薬密輸集団によってエルサルバドルを含む中央アメリカを経由し、北アメリカに運び込まれます。

このような麻薬密輸集団同士や警察、軍隊との抗争、ギャングによる麻薬取引も絡んだ縄張り争いなどが殺人率を引き上げています。

軍隊、警察、司法、その他の関係者が密輸集団に買収されるケースも多数報告されていて、地元の住民たちが彼らによって虐げられ、場合によっては、命を取られることもあります。

夜の街(写真:Pixabay [Pixabay Licence])

以上のように、エルサルバドルでは独立当初から存在した経済格差に加えて、不安定な政治や犯罪組織の存在といった問題が積み重なって、殺人率が最悪になりました。

ギャングや麻薬組織などの犯罪者に対する従来の対応

これまで、このようなギャング達に対してはマノデュラ(鉄拳)政策という措置が取られてきました。

この政策は、ギャングが支配する地域での警察による捜査の強化、ギャングの容疑者に対する厳しい刑罰を含んでいました。

さらに特徴的なのは、容貌のみに基づいてギャングの容疑者の逮捕を許可したことです。

この政策は、警察や治安部隊の、ギャング、またはギャングと思しき人物に対する人権を無視した扱いを促進し、無差別大量拘禁や過度の武力行使を招きました。

そして警察による法を無視したギャングの殺人という、最悪の事態を引き起こすことに繋がりました。

それらに加え、問題となったのが刑務所の過密です。

政府がわざわざ公開した、ギャング受刑者で「密」の刑務所 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
エルサルバドルの刑務所過密

2013年9月の時点で、エルサルバドルの刑務所の収容者数は、収容できる人数の約3倍にもなりました。

あまりに多すぎる収容者を刑務所側は管理できず、過密状態の刑務所内でのMS-13、18番街といったギャングの抗争は多くの死者を生んだため、刑務所側はギャングを組織ごとに異なる刑務所に収容することを余儀なくされました。

しかし同じギャングのメンバー同士が、同じ刑務所に収容されることは彼らの結束を強化させる結果を引き起こしただけでなく、ギャングのリーダーたちは、携帯電話などを用いて刑務所外のギャングと連絡を取り合い、活動を続けました。

そして指示を受けた外界のギャング達はますます警察に抵抗し、多くの死者を生みました。

なので、鉄拳政策は、政策が施行された当初は2004年に殺人を14%減少させ、国の殺人率を下げることに成功を収めましたが、2006年までに殺人率が10万人あたり64.7人に増加するという短期的な成果でしかありませんでした。

警察と市民(写真:Presidencia El Salvador / Flickr[CC0 1.0])

ナジブ・ブケレ氏の大統領就任

ナジブ・ブケレ氏は2019年6月、エルサルバドル大統領に就任しました。

2014年から2019年まで大統領を務めたFMLNのサルバドール・サンチェス・チェレン前大統領のもとで殺人事件が急増していた中での就任でした。

チェレン政権の5年間、エルサルバドルでは23,000人が殺人により命を落としています。

ナジブ・ブケレ氏はこのような最悪の状況下で大統領の任に就いたにも関わらず、彼は2019年6月から2020年5月までの一年間で前年比51.3%にまで殺人率を半減させることに成功しました。

ナジブ・ブケレ大統領(写真:Presidencia El Salvador / Flickr[CC0 1.0])

ブケレ大統領はサンサルバドル生まれの若い起業家で、2012年の市長選に当選して政治家になりました。

2019年の大統領選には、元大統領たちの起こした汚職が原因で、政府に対して国民達の不信感が募っている中、出馬しました。

ブケレ氏はFMLNとARENAの関係の安定化、治安部隊、警察と政府との連携強化、法務省、公安省の予算増加などを提示し、大統領に当選しました。

安全保障政策の改善

ブケレ大統領は当時の殺人の多い状況を変えるべく、まず安全保障政策の改善を掲げました。

具体的には、

1.刑務所内の状況を改善するための労働状況の見直し

2.法律と秩序を強化するための戦略

3.農村など都市から離れた所に配備される警察の増加

4.刑務所で活動するための警察の大隊の編成

5.汚職と戦うための国際委員会の設立

6.ギャング活動に巻き込まれた若者、ギャングなどの犯罪者達から被害を受けた人々の生活の支援

などを提唱しました。

領土管理計画

加えて、殺人率半減を成し遂げた重要な政策に領土管理計画があります。

この計画は主に22の優先自治体に焦点を当てて、警察と軍のパトロールの長期的な配備を行い、ギャング達との抗争に備えた治安部隊の組織力強化の対策も取られました。

この計画は鉄拳政策的な性質も持ち合わせています。

政府は外界のギャング達に対し、暴力を減らさなければ、刑務所内の仲間たちを一切日光のあたらない部屋に収監したり、敵対するグループのギャング同士を同じ部屋に収監するといった声明を出しました。

従わないギャング達には、実際にこの措置は実行されました。

現在活動を行うギャングへの対策に加えて、経済的な支援や、不足する雇用機会の充足、スポーツやレクリエーションなどへの参加の機会の提供など、若者をギャング組織に加担させないための対策が行われています。

たとえばこれまでに、政府主催のサッカーキャンプ、職業訓練や奨学金の提供などが行われてきています。

ブケレ大統領はギャングと交渉した?

ブケレ大統領の計画が進行し、殺人率が減少するにつれてある疑念が生まれてきています。

この殺人率の減少を引き起こした明確な理由がわからないんです。

領土管理計画はその内容から、成果が出るにはもっと時間を要するはずです。

エルサルバドル法務省、公安省のデータによると、領土管理計画が実行された地域と、殺人が減少している地域とがかみ合っていないようです。

そこでギャング達と政府との間に非公式な交渉、及び合意があったのではないかという疑念が生まれています。

実際に18番街のスポークスマン(団体の意見発表の担当者)の最近のインタビューでは、殺人を減らすという合意がギャングと政府との間であったという主張もありました。

しかしながら政府は、そのような合意は公にも秘密裏にも存在はしていないと繰り返し否定しており、実際それらを示す明確な証拠は出てきていません。

ブケレ大統領がこのようなギャングとの交渉を行ったとの証拠はありませんが、エルサルバドルでは過去にギャングとの交渉がなされたことがありました。

2012年にギャング間の殺人、民間人の殺害、治安部隊への攻撃を減らすというギャングの公約と引き換えに、政府は最大警備の刑務所から比較的規則の軽い刑務所へギャングの指導者を移送すること、疎外されたギャングのコミュニティに経済的な機会や、雇用などの社会的なプロジェクトを創出することなどを約束しました。

この合意がなされた後、1日の殺人は15人から5人に減少し、暴力レベルは15ヶ月安定したままでした。

ですが、いくつかの欠陥が露呈するようになりました。

公式の殺人率は合意中に低下しましたが、殺害の実際の減少は報告よりも小さい可能性があります。

またこの期間に失踪事件が増加していて、政府が把握できていない殺人があったことがうかがえます。

ギャングとの対話による問題解決の失敗要因には政府機関各所での足並みが揃っていなかったことが挙げられます。

このプロセスを主導した法務・公安省以外の政府機関からの支援が十分でなかったため、刑務所の移送措置以外のギャングの要求に対処できませんでした。

合意が決裂した後、殺人を含む暴力は前例のないレベルに急増してしまい、交渉に基づく停戦は失敗に終わってしまいました。

過去に政府とギャングの合意が決裂し殺人率が増加した背景、そして今回もまたギャングとの合意が行われたという疑惑があるにも関わらず、ブケレ大統領は高い支持率を保っています。

それにはギャングとの関わりが大統領にあるにしろないにしろ、実際に殺人率は減少していることが理由にあると考えられます。

エルサルバドルの日常(写真:Jdklub / Wikimedia Commons [CC BY-SA 3.0])

殺人を減らしていくためには

ギャングとの公の交渉が成功すれば、安全に殺人を減らしていくことが出来るかもしれません。

実際2016年に行われたエルサルバドルのオンラインニュース会社、エル・ファロによるインタビューでMS-13の主要人物の1人は、正式な政府との交渉であるならば、メンバー達の活動を控えさせることを検討すると述べました。

しかし、ギャングとの交渉には法的な壁もあります。

もし交渉をする場合、エルサルバドルにおいてテロ集団との交渉は認められていないため、最高裁判所が2015年に下したギャング達をテロ集団と認めるという判決を覆す必要があります。

ですがエルサルバドルの法律専門家たちは、元の判決を廃止することは、一度採択された法律を変える必要があるため、これは非常に困難だと言います

現実的に考えてもギャングと政府の交渉が公に実現するのは、まだ難しいようです。

またいくら政府がギャングに対する政策を打ち出し殺人事件を減少させようとしても、エルサルバドルが麻薬の国際貿易の経由地である限り、ギャングの存在、殺人はなくならないでしょう。

国としては大麻などの一部麻薬の合法化・非処罰化を通じて、麻薬密輸の管轄を、非合法組織から行政へと移行しようとする動きをとっていますが、麻薬は現在の時点で南北アメリカを駆け巡っています。

サンサルバドルの街並み(写真:Rene Aguiluz / Flickr[CC BY-NC-ND 2.0])

コラム

殺人率が高いって聞いたらこわい!そんな国ムリ!ってなると思うんですが、そうなった背景にはアメリカが政治的に介入して紛争になり、そのせいで生まれたギャングがアメリカに来て困ったら、彼らを更生するプロジェクトを作るんじゃなくて、エルサルバドルに強制送還したことだったり、そんな怖いイメージがないアメリカも大きく関わってることがわかったんではないでしょうか?

エルサルバドルの殺人率の高さを減少させていくことは、とても難しいです。

ギャングが国に深く浸透している以上、あらゆる制度を根本から見直していかなければいけません。

でもブケレ大統領という革新的な大統領が現れたことは、長い間変わらなかったエルサルバドルの惨状を変えるきっかけにもなっています。

そして惨状を変えることが出来れば、新たな未来を担うことになる若者達を救うことに繋がります。

これからの新しいエルサルバドルの改革に注目していきたいな、と思います。

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