スウェーデン発:フェミニスト外交政策って?男女平等を外交に取り入れる?その障壁とは

みなさんこんにちは、コクレポです。

スウェーデンは、世界経済フォーラムが毎年発表しているジェンダーギャップ指数で、2006年以降常にトップ5に入っており、男女格差の小さい国として知られています。

議会の約半数を女性が占め、両親合わせて480日取れる育児休暇制度のうち、最低でも90日は両親のどちらもが取得をしなければならないなど、多方面で男女平等が進んでいます。

男女平等は女性が抱える問題だと考えられがちですが、男女平等を推進することは女性のみならず社会全体にとっても恩恵をもたらすことがわかっています。

男性優位とされてきた業種で、管理職への女性登用を10%増やした結果、平均して収益が1.5%増加したケースなども報告されています。

また、男女が平等に参加した和平交渉は持続可能性が高いことも示されています

つまり、男女平等はそれ自体で重要な目標であるが、経済成長や平和など、よりよい社会を作っていくためにも不可欠です。

男女平等を推進することにより生み出される利益や、その達成により守られる人間の権利に着目し、男女平等を国内の政策に含める国は多く存在しますが、スウェーデンは男女平等を国内問題としてだけではなく、世界に共通の課題として、2014年に世界で初めて男女平等を外交政策に取り入れました。

この外交政策は、「フェミニスト外交政策」と呼ばれています。

フェミニズム」とは、社会、経済、政治といったあらゆる分野の権利を、性別を理由として否定されるべきではないという考え方です。

一見革新的な取り組みにも思えたフェミニスト外交政策ですが、スウェーデンは、2022年にはこの外交政策の継続を断念しています。

この記事では、スウェーデンを中心に男女平等を外交に取り入れるとはどういうことなのか、そしてそれを実施する際に生じる障壁について探っていきます。

2014年にフェミニスト外交政策を導入した際のスウェーデン内閣の様子(写真:Frankie Fouganthin / Wikipedia [CC BY-SA 4.0] )

スウェーデンのフェミニスト外交政策の概要

フェミニスト外交政策とは、外交政策においてフェミニズムの概念を取り入れることで外交を通じたジェンダー平等を目指そうとする動きです。

実際のフェミニスト外交の一例としては、これまで行われてきた2国間援助や地域援助などの枠組みにジェンダーの視点を盛り込み、開発援助や人道支援などが行われています。

1996年以降のスウェーデン外交では男女平等の促進が積極的に目指されていたとされていますが、2014年マルゴット・ヴァルストローム外相の下、正式にフェミニスト外交の推進が宣言されました。

フェミニスト外交の基となった概念としてスウェーデン政府は、世界人権宣言(1948年)、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(1979年)、北京宣言(1995年)、女性・平和・安全保障に関する国連安保理決議1325号(2000年)、持続可能な開発目標(SDGs)(2015年)などの存在を挙げており、世界的にも長きにわたり男女平等の推進が目指されてきたことがその背景にあります。

こうしたフェミニスト外交を通じて、世界的なジェンダー平等の実現に寄与しようという目的の一方で、「男女平等の推進に積極的なスウェーデン」という自国のブランディング戦略の意味合いもあったとする見方もあります。

スウェーデンのフェミニスト外交政策の特徴は、様々な分野の外交政策の中にジェンダー平等の観点を取り入れるのではなく、ジェンダー平等を達成すること自体が、外交政策の目的となっているところです。

スウェーデン社会民主党のマーゴット・ウォールストローム外相(当時)(写真:CBSS Secretariat / Flickr [CC BY 2.0])

スウェーデンは、このフェミニスト外交政策の中で3つのR「権利(Rights)、参加(Representation)、資源(Resources)」に焦点をあてています。

それぞれのRについてスウェーデン政府が掲げる立場と世界的な現状を簡単にまとめてみました。

「権利(Rights)」についてスウェーデン政府は外交を通じて全ての女性と女児が人権を享受できることを目指すとし、具体的には「教育、労働、結婚、離婚、相続、所有などに対して男性と同じ権利を持てる」ことや「行動の自由を制限するあらゆる形態の暴力や差別と闘う」ことを目標に掲げています。

しかし現状、女性が所有する世界の土地資源は 20 %未満で、多くの国では、女性には土地を所有する法的権利すらありません。

スウェーデン政府は、こういった女性の権利が侵害されている国に対して、人権条約を批准し遵守するよう提唱しています。

また、2014年に欧州男女平等研究所(EIGE)は、ジェンダーに関連した暴力が欧州連合(EU)加盟国にどのくらいの損害を与えているかの推計を発表しました。

その額は年間2,560億ユーロに達し、その87%は男性から女性への暴力によるものであると考えられています。

そこで、スウェーデン政府は暴力によって人権が侵害されないために、2017年に国連安全保障理事会で、ジェンダーに基づく暴力を経済制裁の根拠とする決議案を提出しました。

次に、「参加(Representation)」に関してスウェーデン政府はあらゆる分野、あらゆるレベルの意思決定において女性が参加し、影響力を持つことを求めています。

そこには市民社会などの対話も含まれているとし、女性の参加が実現することで、社会的に男女平等が加速していくと主張しています。

しかし、現状ではこういった場に女性が参加することは少ないです。

例えば、1992 年から 2011 年までの 31 件の主要な和平プロセスを調査したところ、交渉担当者のうち、女性はわずか 9%でした。

また、和平協定に署名した人のうち、96%以上が男性でした。

こういった現状を改善するために、スウェーデン政府は政治的、技術的、財政的支援を通じて、コロンビア、マリ、シリア、アフガニスタン、ミャンマー、ソマリアなどの国々における和平活動に女性がより関与することに貢献しました。

具体的には、2016年に行われたコロンビアの和平合意で、スウェーデンはコロンビアが平和を構築するために約8,000万ユーロを支援する代わりに、和平合意にジェンダー平等問題を盛り込むよう求めました

最後に、「資源(Resources)」について、スウェーデンは女性と女児が人権を享受できるようになるためにはジェンダー平等推進に資源を割く必要があるとしています。

2020年の経済開発協力機構の報告書によると、スウェーデンは2018年に対外援助の87%をジェンダー平等が主要、もしくは重要な目的となっている事業に充てました。

また、スウェーデンは国際連合において、紛争下での性暴力に関する国連特別代表の職を2010年に作り出し、後にフェミニスト外交政策を導入することとなるマーゴット・ウォールストローム氏がこの職を歴任しました。

さらにEUにおいては、全ての対外政策において男女平等の促進を図ると定めた「ジェンダー行動計画III」を理事会で採択する際、主導的な役割を果たしました。

フェミニスト外交政策の他国への影響

スウェーデンのフェミニスト外交政策に他国も追随していて、カナダ、ルクセンブルク、フランス、メキシコ、スペイン、リビア、ドイツ、そして最近では2022年9月にコロンビアがこの政策を導入すると発表しました。

ここではカナダとメキシコの事例に絞って紹介します。

カナダ政府は、2017年にフェミニスト外交政策を導入すると発表した。

カナダのフェミニスト外交政策の目的は、あらゆる分野で男女平等を促進し、女性が権利を行使できるようにすることで、世界の貧困を撲滅することです。

カナダ政府は、平和活動への女性の有意義な参加を増やすために2017年に設立されたエルシー・イニシアチブを通じて、ガーナおよびザンビア政府に資金を提供し、それらの国における平和維持活動(PKO)への女性の参加を促進しました。

カナダ政府は、2018年の主要国首脳会議(G7)議長国として、G7の全ての議題でジェンダー平等を優先課題とすると発表するなど、多国間舞台でジェンダー平等問題について声を上げてきました。

スーダンで行われた国際女性デーのイベントに参加するザンビアのPKO(写真:U.S. Institute of Peace / Flickr [CC BY-NC 2.0])

メキシコは2020年に、グローバル・サウスで初めてフェミニスト外交政策を採用しました。

メキシコのフェミニスト外交政策は、次の 5つの原則です。

1)外交政策にジェンダーの視点を取り入れること、

2)外務省内の男女平等を進めること、

3)省内を含め、ジェンダーに基づく暴力と闘うこと、

4)目に見える男女平等を実現すること、

5)外務省のあらゆる分野にフェミニズムを統合すること

メキシコは2024年までに外務省全体で男女平等の雇用と同一賃金を達成することを公約として掲げています。

フェミニスト外交政策の矛盾・限界

スウェーデンはフェミニスト外交政策を掲げてきましたが、その内容と現実には落差もみられます。

例えば、フェミニスト外交政策には人権や平和への尊重が含められていますが、一方で同国は世界トップ10に入る主要な武器輸出国であり、女性の最も基本的な人権すら否定されている地域や、抑圧的な独裁政権への武器輸出をしています。

これは、ジェンダー平等を推進するという政府の政策と明らかに矛盾していて、スウェーデン製の兵器がしばしばジェンダーに基づく暴力と弾圧を可能にし、助長しています。

2018年にスウェーデンから軍事装備品の輸出を受けた国の中には、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、ヨルダン、クウェート、バーレーン、カタールといった、人権侵害の可能性が明らかにある国家が含まれています。

また、この軍事品が実際に紛争に使われることもあり、報道によるとサウジアラビアに輸出された多数のスウェーデン製兵器が、イエメン紛争で使用されてきたといいます。

紛争中は性暴力がなされやすい上に、医療へのアクセスが閉ざされると、性暴力の結果としての妊娠も含め、女性が妊娠や傷害に対する適切な治療を受けられず、健康が害される恐れがあります。

こういった人権を明らかに侵害している国に武器を輸出することは、結果的にスウェーデンが当該国の軍事作戦を支援し、人権侵害をしていると見なされても仕方ありません。

サウジアラビアに輸出されているスウェーデン製のミサイル(写真:Bundesheer Fotos / Wikipedia [CC BY-SA 2.0])

さらに、移民・難民の政策についてもフェミニスト外交政策と矛盾している側面があります。

2015年の下半期に、スウェーデン政府は国境管理を厳しくし、2016年には一時亡命法と呼ばれる法律を可決しました。

この法律は、難民申請者とその家族が、スウェーデンでの居住許可を得ることを制限するものです。

この法律が施行されたことにより、2015年には約16万人いた亡命希望者が、2016年には約3万人にまで激減しました。

移民や難民の受け入れを制限するという政策は、移民・難民である女性の権利を守るという、2017年に定められたスウェーデンの行動計画とは相容れないもので、明らかに女性の人権に悪影響を与えています。

フェミニスト外交政策をやめた理由

2014年にフェミニスト外交政策が導入されてから、ジェンダー平等を達成するための多くの取り組みがなされ、他国にもその政策は広がるなど、成果は様々ありました。

しかし、2022年に発足したスウェーデンの新右派政権は、政権の発足直後、フェミニスト外交政策を廃止すると発表しました。

スウェーデンの新たな外務大臣となった、トビアス・ビルストロム氏はこの決定の理由について、「『フェミニスト外交政策』という名前によってその内容が誤解される傾向があるからだ。」と述べています

つまり、「フェミニスト」という言葉を、否定的な意味でとる人がいて、彼らはフェミニズムやジェンダー平等に関するプログラムによって、女性に権利や資源が集中すると、その分男性の利益が減少すると考えていると考えられます

トビアス・ビルストロム外相(写真:Stortinget / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])

しかし、第三者からは別の見解が述べられています。

2022年9月、右派の複数の政党からなる新連立政権が選出されたことで、世界での問題よりもスウェーデン国内での問題に注目するべきだという世論が強まったという指摘があります。

確かに、2022年にスウェーデン政府が述べた、スウェーデンの最も重要な政治的課題は、「経済成長、安全性の向上、移民政策、気候変動対策、医療、教育」で、国内問題に焦点をあてたものが多く、ここにジェンダー平等は含まれていません。

フェミニスト外交政策の廃止により、大々的に外交としてジェンダー平等を掲げることはなくなりましたが、ジェンダー平等はスウェーデンにとって基本的な価値であり続けるといいます。

今後の展望とまとめ

新政権の発足により、政権が提供する国際援助の額は減少することとなり、2022年からの3年間で50億ユーロの援助が削られる予定です。

グローバル・サウスで行われている、女性の権利のための活動において、この援助は非常に重要な役割を果たしているため、フェミニスト外交政策の廃止とともに、国際援助の額が減ったことは衝撃的なニュースであり、活動が維持できなくなって、女性の権利が再びないがしろにされる可能性があります。

スウェーデンのフェミニスト外交政策は、多くの矛盾をはらんでいながらも、その政策によって、世界のジェンダー平等実現に幾分か寄与したことは事実です。

今後、カナダやメキシコといったスウェーデンに倣ってフェミニスト外交政策を取り入れた国が、この政策を維持し続けるのかどうかに注目していきたいと思います。

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