みなさんこんにちは、コクレポです。
コットンって、Tシャツやスウェットで使われてたり、とても身近なものですよね。
でも、コットンの原料の綿花を生産してる人たちの暮らしを知ってますか?
生産量最大のインドの生産者たちのほとんどは貧困状態なんです。
その背景には何があるんでしょう?
インドの綿花農家が抱える問題を見てみましょう。
インドの綿花産業
まずはインドにおける綿花の歴史を辿ってみましょう。
インドの綿花の歴史
綿花の生産は、紀元前6000年ごろにインダス川のデルタ(現在のパキスタン)で始まったと考えられています。
インドで生産が始まったのも5,000年以上前にさかのぼります。
西暦200年頃のインドでは、綿製品は高級な商品として中国やパルティアなどの周辺地域へ輸出し、それがさらに西方のローマ帝国にまで渡りました。
18世紀初頭まではインドが世界の綿花生産の中核でしたが、それ以降は奴隷制に支えられた北米南部地域での綿花栽培も増えました。
18世紀後半以降、産業革命によってイギリスで綿工業が発達すると、イギリスは原料である綿花を植民地のインドに輸出させ、イギリスが綿製品を生産するようになりました。
イギリス産の機械製綿布がインドに流入するようになったため、インドの綿織物工業は大きく打撃を受けました。
19世紀後半に、当時の綿花の主要生産国であったアメリカで南北戦争が起きると、インドによる綿花の輸出が伸びていきました。
そして現在も綿花はインドの重要な商品作物で、多くの人が繊維産業に関わっています。
現在のインドの綿花産業
インドには綿花農家が約580万人存在し、国内人口の約3.7%に当たる5,100万人が綿糸や綿織物の生産など、綿花に関連する産業に従事しています。
インド国内ではグジャラート州の生産量が最大で、 マハーラーシュトラ州とテランガーナ州が続いています。
この3州の生産量だけでインドの綿花生産の約62%を占めています。
中国とバングラデシュは世界1位、2位の衣類輸出国で、パキスタンも繊維の輸出で世界トップ10に入る国です。
インドで生産された綿花や、それを加工した綿糸や綿布はこうして近くの衣類生産国に輸出されています。
ハイブリッド種の普及
1970年から、インドの綿花農業は伝統的な栽培方法からテクノロジーを駆使した栽培方法に変化し始めました。
まずはインドの綿花栽培における「ハイブリッド種」の利用である。
ハイブリッド種とは、異なる品種を掛け合わせて開発した種子で、十分な肥料や水と併用することで収穫量の増加を見込むことができる高額な種子です。
ハイブリッド種は自然には生成されないため、栽培を続けるためには毎年種子を購入する必要があります。
2002年には遺伝子組み換え種子(GM種子)の利用が合法化され、Bt種子という品種の遺伝子組み換え種子がインドで栽培され始めました。
Btとはバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)の略語で、土壌の中に生息している細菌のことです。
この細菌は体内で殺虫効果のあるたんぱく質を生成することができるため、この遺伝子を農作物に組み込むことで、農作物を害虫の被害から守ることができます。
このBt種子からできたBtコットンは、ワタのつぼみ、花、種子を食べる害虫の駆除を目的に生まれました。
2020年現在、インドの綿花用地の95%以上でBtコットンが栽培されています。
インドで使用が認められている遺伝子組み換え種子は、バイエル社(旧モンサント社)の販売するBtコットンの種子だけです。
モンサント社は、Bt種子の販売当時はアメリカに本社を構える多国籍バイオ化学メーカーでしたが、2018年にドイツ製薬大手のバイエル社に買収されました。
今はバイエル社が引き継ぎ、インドの種苗会社や生綿花生産者へBt種子を販売し続けています。
綿花生産者たちが直面する貧困の課題
綿花生産の収入
綿花生産者たちの多くは深刻な貧困問題に直面しています。
綿花農家の70~80%が綿花のみを栽培していて、収入源を綿花に大きく依存しています。
でも、綿花栽培は他の農作物に比べて儲かる作物ではありません。
インドの農家の平均年収は、1ヘクタール(ha)あたり約1,315米ドルであるのに対し、綿花農家の平均年収は1haあたり約995米ドルと、約300米ドル程度の差があります。
児童労働
また、児童労働も貧困がもたらす深刻な問題の1つです。
インドでは16歳以下の労働は法律で認められていないにもかかわらず、国内の綿花関連産業で約50万人が児童労働をしていると推定されています。
国内の他のどの産業よりも児童労働の割合が高いんです。
農地の作業や、綿花の種子から綿繊維を分離する綿繰りの作業に児童が就かされています。
その上多くの子供たちは8~12時間働きながら、最低賃金に満たない収入しか得られていません。
1日の最低賃金は約7米ドルですが、その3分の1以下の2米ドル程度しか支払われないケースも確認されています。
また、こういった子供は貧しい家庭の出身である場合が多いです。
親が斡旋業者に10歳前後の子供を引渡し、子供が綿花農家で長時間働き、その収入を親が直接受け取っているという例もあります。
自殺率の高さ
綿花に限らず、農業従事者の自殺率は人口全体の自殺率に比べ高いです。
中でも小規模農家における自殺率が高く、借金地獄に陥ったことが原因としてよく報告されています。
ハイブリッド種の問題
収穫量の増加や害虫駆除などに役立つと期待された、ハイブリッド種や遺伝子組み換え種子を利用して栽培する「農業の工業化」もまた、必ずしも農家の貧困問題を解決する手段にはなりませんでした。
むしろ、小規模の農家を一層苦しめる要因にもなったんです。
なぜなら、農業の工業化によって生産者がより大きなリスクを背負って栽培しなければならなくなったからです。
高額をはたいて購入したBt種子や肥料などを使用しても、灌漑へのアクセスが無い限り、収穫高は降水量など天候によって大きく左右されます。
実際に、Btコットンの生産を成功させるには灌漑の有無が大きく関わることが分かっています。
灌漑を有する農家では安定的に水を利用し、遺伝子組み換え種子を有効活用して害虫の発生を抑制し、より少ない殺虫剤でより多くの綿花を収穫することが可能になり、これが貧困の軽減につながっています。
灌漑を利用している農家の収入は、利用していない農家に比べて2倍以上も高いです。
でも、インドの綿花農家の65%は灌漑設備を持たず、雨水に頼っています。
こういった農家では遺伝子組み換え種子の利用する場合にも、収穫量は結局天候に左右されます。
初期投資として高額な値段を払ってしまっているため、収穫量が減るとコストが収入を上回りローンを返済できなくなるリスクが高まります。
中には、支払いのために家や農地を手放さざるをえなくなる農家もいます。
こうして「農業の工業化」は小規模農家を貧困や、時として自殺にまで追い込んでいるんです。
加えて、害虫を駆除するために用いられてきた遺伝子組み換え種子や殺虫剤の利用によって、むしろ害虫が進化し化学物質への抵抗力が強化されるという側面も指摘されています。
また、遺伝子組み換え種子の利用で農地面積当たりの収穫量が多くなると、その分綿花をエサにする害虫も増えやすくなります。
こういったことから、結局遺伝子組み換え種子を利用する前以上の殺虫剤が必要となり栽培の費用を増加させてしまうという、本末転倒な結果になる農家もいるんです。
さらに、Bt種子 の販売元であるバイエル社(旧モンサント社)は、種子に加えて専用の農薬の販売や、種子の利用に対して特許料の支払いを求めてきました。
インドの40以上ある種苗会社は、種子450gあたり商品代として約10米ドルと、それに加えて特許料を支払う義務を負いました。
長年のインド政府と企業との協議の結果、2018年にようやく特許料を20%減らして0.53米ドルに、2019年に半額の0.27米ドルに引き下げ、そして2020年3月には特許料を廃止することに成功しました。
でも、農家が種子を買うときの価格は決められているため、綿花農家の状況は変わりません。
特許料廃止によって負担が解消されるのはインドの種苗会社だけです。
綿花の取引の問題点
農家に不利な構造
ファッションの裏側の記事で説明したように、アパレル関連のサプライチェーンの上方に位置する商社や繊維・衣類メーカーは大半の利益を得られますが、綿花の参加者たちは一番下です。
製品化した衣類の価格のたった10%しか原材料費として農家に還元されないんです。
多くの農家は契約農家で、企業がローンで工業的農業に必要となる高価な肥料や殺虫剤、ハイブリッド種、遺伝子組み換え種子を提供し、収穫後に生産物である綿花を買い取るという契約を生産者と結びます。
でも、提供する価格も、収穫物の買取価格も企業側が決めるため、農家は綿花の価格設定にほとんど関わることができず不利な立場におかれるケースが大半です。
またインドでは、最低価格や農家で働く人の最低賃金を守らせる法律とその実効性が低いです。
契約栽培ではない場合には、農家が作った綿花を仲介人や貿易業者が買い取ります。
でも、その際、農家は生産コストよりも低い値段など不当に安い価格で綿花を買い取られるという問題が起きています。
主な原因は情報の非対称性です。
貿易業者たちは海外の綿花の価格状況や生産高の予測、国際経済の動向について詳しく知っていますが、農家たちは綿花の価格や国際経済についてほとんど何も知りません。
綿花は価格変化の波が激しいため、市場や取引に関する知識の少ない農家は不利になんです。
綿花の市場価格の低下
綿花の市場価格の低下も課題です。
1960年代に1キロ3米ドルだった綿花の価格は、2014年には1キロ1.73米ドルと45%も下がっています。
その要因の一つにアメリカの綿花の値段の低さがあります。
アメリカが公的に巨額の補助金を綿花生産者に与えているため、アメリカの農家はとても安く綿花を売りつつ、補助金により安定した収入を得ることができています。
アメリカと競争するために他の綿花生産国でも価格の低下を余儀なくされ、それでも太刀打ちできないほどアメリカは国際的な綿花の市場価格を引き下げました。
アメリカ産綿花の輸出シェアは補助金によって1995年から2002年の7年間で約2倍に増えましたが、その一方でインドや西部アフリカにある小規模綿花農家にとって国際価格の低下が死活問題になっているんです。
投資家たちの投機がもたらす価格の変動
価格の低下だけでなく、価格が変動することも農家にとっては大きな問題です。
生産に先だって種子や肥料に投資する必要がある農家や、それを貸し付ける企業側にとって、収穫後の綿花がどの程度の価格で売買されるか予測できないのは不都合だからです。
綿花の場合も、その年の天候や害虫の発生状況などによる不作や、繊維や衣類などの需要増加による綿花価格の上昇の可能性もあれば、逆に価格が下落する可能性もあります。
そこで、この不安を解消するために先物取引が綿花市場では取り入れられています。
生産農家と買い取り企業との間で、生産量の内ある一定の量の価格を収穫より先に決めて契約しておくという仕組みです。
価格が大きく変動しても、先物取引が保険のような役割を果たします。
しかし、価格を変動させる要因が天候や生産者・消費者間の需給バランス以外のところにも生まれてしまっています。
2000年代後半以降、先物取引での綿花が株のように扱われ、投機をする投資家やヘッジファンドの一環に組み込まれ、繰り返し売買されるようになりました。
つまり、第三者である資産家などが儲けのために先物取引を利用して綿花を売買することで、綿花栽培の現場と直接関係のない原因により、以前よりも大きな振れ幅で、四六時中価格が変動するようになってしまったんです。
こうなると価格の予測はむずかしく、先物取引のそもそもの狙いであった「安定した価格での取引」を妨げるようになってしまいました。
解決策は?
これまで見てきたように、インドの綿花生産者たちの多くは、複雑に絡み合った数々の問題によって、生活できるレベルの収入すら確保できていません。
この問題はどうやって解決できるんでしょう?
解決の兆しもちょっとあります。
工業的農業の問題については、実るまでの期間が短く、害虫が発生するよりも前に収穫することのできる種を活用することが効果的だという研究報告があります。
また、不当な仲介業者や、価格決定に強い影響力をもつ企業によって綿花の価格が下がっていることに対しては、フェアトレードを促進する動きがあります。
農家の健康や安全、遺伝子組み換え種子の禁止など、一定の基準を満たして生産された綿花をフェアトレード商品として認証し、定められた最低価格を下回らないように取引がされています。
フェアトレード綿花のうち約88%がインド産で、綿花全体の生産量のごくわずかではありますが、フェアトレード綿花の生産量は少しずつ増えています。
また、労働者への正当な賃金保障や、インドの伝統的職人技術を守ることを掲げるエシカルなファッションブランドがインドでも増えてきています。
他にも、高所得国における農業への助成金の制限、綿花の取引に対する規制強化、仲介業者から小規模の農家を守る対策を講じることが必要です。
コラム
私たちが普段着ている服の原料を作ってる人の生活って、考えたことありましたか?
シーズンごとにトレンドの服が安く買える、その背景には生産者のこんな苦難があるんです。
いろいろな解決策を紹介しましたが、問題の大きさからいって、これだけでは不十分です。
消費者として、わたしたちが「何を買うか」を考え直して行動していくことが、1番の解決策になるかもしれません。
どこでどんな服を買えばいいんだろう?ファッションの問題についてもっと知りたいな、と思った人は、ファッションの裏側の記事もぜひ読んでみてください。